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赤い狐(J級突撃艇奮戦記)第5話 投稿日 : 99年6月18日

P級補給艦は開戦当初において,既に老朽化が目立っていた船である。
元々はミサイル戦艦として竣工したものではあったが,もはやその面影は残っては居ない。
何しろ,この艦は連邦軍宇宙要塞の宙域への補給を行い,敵の攻撃で一度撃沈された代物であった。

戦死した当時の艦長の名誉の為に,輸送・補給の任務は完遂された事を記しておく。

幸いな事に,その時には艦内に爆発物は無く,炉も冷え切っており,要塞に叩きつけられたものの,
その反動で弾き飛ばされ,外形を保ったまま,漂流をしていたのである。
コレを拾い上げ,「何かの役に立つかも知れない。」と,修理させていたのが,御存知の男であり,
この艦を病院船『アイス・リバー』として偽装し,航行させていた。
あちこち,ガタがあるのは当然で,気密も一部不完全な所があった。それでも,連邦軍の不意の臨検
に備え,医療設備をそれらしく揃え,患者用寝台には搭乗員が怪我人の振りをして,寝込んでいた。
また,一部の乗員は軍医に変装,人工知能『クラウス』能力向上のプログラム改良に勤しんでいた。

「味方の識別信号をキャッチしました。」
「ああ,J級突撃艇のようだな。恐らく要塞脱出組だろう。」
「突撃艇から通信です。『重傷者有り,至急収容を乞う』との事ですが。」
「困ったな,本艦は特殊任務中だ。負傷兵を収容する事は出来無いぞ。そもそも………」
艦長ハインツ中佐は答えあぐねた。
「この艦には医療器材や医薬品はあっても,肝心の医者が居ないんだ。兎に角,大佐を呼んでくれ。」

男が艦橋に上がって来た時,業を煮やしたのだろうか,突撃艇から再度の通信が入っていた。
「『当艇の重傷者,高級将官なり!!』って,偉く威張っていますが?」
「おや,あの護衛のZKはシュライヒ大尉の『黒騎士』じゃないか。ハインツ艦長,彼も呼ぼう。
負傷者は、とりあえず収容するしか無いだろう。」
「しかし,大佐。当艦は地球へ向かっておりますし,計画では艦を廃棄する予定ですが?」
「見殺しにするわけにはいかんだろう。出来るだけの応急処置をして,医薬品を渡して,出ていって
貰うしかないな,厳重な口止めも忘れずに。」
「はっ!負傷兵の収容作業急がせます。ナース姿の下士官兵に形だけでも看護をさせましょう。」

だが,本物の軍医が連れてきたその患者は偽装病院船『アイス・リバー』の乗員を驚愕させるに足る
人物であったのだ。
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「第5話にして,ようやく『赤い狐』の登場ね。でも,彼はレイラ少佐と要塞を脱出する部隊の援護
をしていたんじゃ無かったの?」
「あれから,1日は過ぎた事にしてくれ。今日はクリスマスだ。」
「じゃぁ,ヴェルナー伍長は?」
「『リーゼ』君かい?どうやら,『峠は越したようです。後は本人の体力次第』といった所だよ。」
「医者と医薬品と医療設備がそろったんだから,助かるはずでしょ。」
「そう,彼は一旦戦死したと報告されるけど,その後,生きていた事が判明する訳だよ。その時は
戦争は終わっていたんだけどね。」
「でも,シュライヒ大尉はどうして,その事を秘密に?」
「ふふふ,それは重大な機密事項だ。」
「『赤い狐』がブリッジに上がってくるまで,看護婦姿の下士官兵とナニをしていたか?くらいに
重大な機密なのね?」


赤い狐(J級突撃艇奮戦記)第6話 投稿日 : 99年6月24日

「患者の容態は安定してます。まさか,血漿交換の設備があるとは思ってもいませんでしたよ。」
手術室から作戦室に戻るなり,エッセン少佐が皆に報告する。
「なに,廃業した総合病院の設備をごっそり一式,貰い受けただけの事だよ。」
男が笑って答える。
作戦室で今後の件を相談していたのは,彼と『ゲパルト』艇長のバッケ大尉,『アイスリバー』艦長
のハインツ中佐,そして『黒騎士』シュライヒ大尉であった。
「我れらの『リーゼ』伍長閣下もひと安心という事だな。で,面会は出来るかね?本人の意識は?」

「無理ですね。麻酔から覚めるのは12時間後です。」
医者としての,厳格な回答である。エッセン少佐はそこで,一つわざとらしく,大きく咳払いをして
『いかにもこれから友人に嘘をつくぞ』といった口調で言葉を続けた。

「それに,顔にも酷い火傷があり,包帯で覆っていますが,少しばかり人相が悪くなっているかも
しれません。その上,今は気管内挿管で人工呼吸を行っていますが,気道内熱傷の影響で声が以前と
変わってしまってる可能性も有ります。さらに,日常生活や軍務に支障は無いとは思いますが,軽度
の酸素欠乏症のため,記憶に混乱があるかもしれません。もちろん,快復されれば,大軍を率いて
戦われるのに,何らの支障もありません。」

「上出来だ。カルテにしてくれ。」
「ですが,本艦は極秘任務中です。『リーゼ』閣下をお運び致すわけにはいきません。」
ハインツ中佐にしてみれば,ここでこれ以上の航行の遅れが出る事は何としても避けたかった。
「少佐が必要とする器材を全部,私の『ゲパルト』に積みこんで,お運びするというのは如何です?
多少狭苦しくて『リーゼ』閣下には,少しの間我慢していただくことにはなりますが。」
それ以外の選択肢は見つからず,バッケ大尉の提案が認められた。

「じゃぁ俺が直援だな。『黒騎士』を白く塗り替えようか?狼の紋章も付けて。」
シュライヒ大尉が戯けて見せる。
「いや,お前は一人で”ピルツ”に行って貰う。要塞の生き残り連中と連絡を取ってくれ。」

「え!では,『リーゼ』閣下をどこに?直接本国へですか?」
「いや,バッケ大尉の『ゲパルト』には月の中立都市に行って貰う。私の知人で口の堅い医者が
『アームストロング公園前』に病院を開いているはずだ。そこに潜伏して,時機を待て。」
「そうですね。来るべき戦後,その時にこそ『リーゼ』閣下の存在が,公国内での我々の大きな
後ろ盾となる。という訳ですね。」
「そうだ。それに,いざという時の保険にもなる。」

そう言って,男が席を立った時,ブリッジから緊急通報が入った。
「連邦軍巡洋艦を発見,急速接近中!!」
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「ねぇ,よく判らないんだけど………」
「医療ネタに関する質問は却下。虎ノイだって医者じゃないから。変な事は書いてないと思うけど。」
「じゃ,無くて『リーゼ』伍長閣下って,結局誰なのよ?」
「え?作中で随分説明しているはずだけどなぁ,『リーゼ』はドイツ語で巨人を意味する言葉
(Riese)だし,閣下と呼ばれる人物は宇宙攻撃軍ではたった1人しか居ないはずだぞ。」
「じゃぁ,伍長ってのは?」
「ヒトラーの陰口をたたくときの,彼のドイツ軍における最終階級だよ。有名な話だってさ。」
「最後まで,正体を明かさないつもりなのね。」


赤い狐(J級突撃艇奮戦記)第7話 投稿日 : 99年7月2日

オペレーターがさらに状況を報告する。
「連邦軍巡洋艦は2隻,MS隊を発進させつつあります。人型が3機と玉ッコロが1機。」
シュライヒ大尉がヘルメットを取って立ち上がった。
「へへっ,俺の『黒騎士』と大佐の『赤い狐』が有れば,怖ろしい相手じゃないな。」
しかし,男はそれには答えず,命令を下した。
「艦長,船を放棄する。退艦命令を出して,味方へのSOSを発信してくれ。」
ハインツ中佐はその意味を解して,ブリッジへと駆け出して行く。

「へっ?」
残されたバッケ大尉もエッセン少佐も驚く。
「何故です?エースのZKが2機,私の『ゲパルト』も充分戦力になりますが?」
「患者の安全はどうなるんです?」

「いや,何か策があるんでしょう,先生?」
男はそれらの問いかけに答えず,不適な笑いを浮かべた。

連邦軍巡洋艦『スタンリー』は,要塞を脱出した公国軍の残存兵力を追撃中に,偶然この輸送艦を
発見したのであった。

「しかし,あれは病院船ではないのか?」
「いえ,偽装艦の可能性もあります。一応,臨検した方が良いでしょう。」
「そうだな。念のためにもな。」

しかし,MS部隊が接近する前に事件は起きた。
「敵の通信を傍受。かなり,あわてているらしく”裸文”です。内容は………,えっ!?」
「どうした?」

『コチラ,ジジ……公国赤十字社病院船『アイス・リバー』,連邦軍ノ巡洋艦ヨリ攻撃ヲ受ク……
ジジ,至急救援ヲ乞フ……!!』
「何だと!?」

スタンリーの艦橋のメインディスプレイに,最大望遠でその艦が映し出された。
被害箇所とおぼしき場所から激しく煙と炎を上げている。あまりにも激しい火災のため,煙が船を
完全に覆い尽くしている。脱出のために発進したランチが確認できたが,次の一瞬に炎に包まれて
爆発・四散してしまう。やがて,炎が船体を舐め尽くし,激しい爆発が連続して起き,
やがて収まった頃,一瞬の閃光が煌めいて,唐突に総てが終わった。

「一体,何だったんだ?」
「レーダー機能,回復しましたが,艦影有りません。」
臨検のために発進していたMS隊からも連絡が入る。
「ガラクタは浮遊してますが,大きな残骸は有りません。探せば,死骸の一つ二つくらいはあるかも
知れませんが?」
「大型機雷に接触したのではないでしょうか?それを我が艦隊からの攻撃と勘違いしたのでは?」
「そ,そうだな。そうに違いない。この宙域から直ちに移動だ。機雷源の可能性が高い。
それに,さっきの通信を誰かが傍受していたら,我々が病院船を攻撃して沈めた事にされかねない。」
「MS隊の収容を急がせろ!!直ちに金平糖に帰還する。」
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「誰も,信じていないと思うから言うけど,どーせ『赤い狐』の偽装工作よね?」
「当然だよ。大体ここで病院船が沈んだら『地球は青かった』の名セリフが吐けないじゃないか?」
「迷セリフの間違いでしょ。ところで赤十字社って,宇宙世紀にもあるのかしら?」
「19世紀に誕生した組織で,21世紀まで存続するはずだから,あるだろうね。でも,赤十字の
マークは変わっているかもしれないね。」
「どうしてかしら?」
「イスラム教圏では,十字架はキリスト教を指すシンボルだから使われず,赤い新月がマークだよ。」
「道理で,べたべた色んなマークを付けてるわけね。」


虎ノイ 題名:赤い狐(J級突撃艇奮戦記)第8話 投稿日 : 99年7月9日

去っていく連邦軍巡洋艦。しかし『アイス・リバー』は岩塊に隠れて,しっかり生き延びていた。

「やれやれ,行ってくれたな。」
「うまく,騙しおおせたようですね。」
「しかし,こんな迫真の立体映像,どこで創ったんです?」
「創ったわけじゃ無いよ。本物の撃沈シーンを撮影して,この船の映像をうまく取り込んだだけさ。
我が軍のパイロットはエース揃いで題材には事欠かなかったからね。もちろん,画像の加工は
宣伝省の知り合いに頼んだけど。」
「それにしても,船体から本当に煙が噴き出した時は,どうなることかと思いましたよ。」
「本船は一部気密が完全じゃないから,そういった船室に発煙装置を組み込んでおいたんだ。
演技が迫真に迫るし,煙が本物なだけにフォログラフが見破られる可能性も低くなるわけだ。」

「大佐,自慢話はそれくらいにして,患者移送の準備をしませんと。」
「そうだな。今ので90分はロスしている。急がねばならん。」

やがて,全ての作業は終わって,『黒騎士』と『ゲパルト』は,それぞれ重大な任務を帯びて
旅立った。
『アイス・リバー』の艦橋で,男は感慨深げにそれを見つめていた。

「思わぬ所で『旗印』を手に入れられましたね。後は軍資金ですが,今回の航海がうまく行けば,
それも………。」
ハインツ艦長が語りかけた時,男は既に下士官兵の看護婦姿に気を取られていた。

情けないエンディングであるが,性格は相変わらずである。

赤い狐(J級突撃艇奮戦記)〜〜Ende〜〜
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「ふう,やっと終わったぞ。」
「分かんなぁーい。結局『ゲパルト』で月に運ばれていった負傷者って,ヴェルナー伍長なの?
宇宙攻撃軍の総司令なの?一体どっち?」
「公的な史料によると,宇宙攻撃軍総司令は12月24日の戦闘で戦死したことになっているよ。
もっとも,誰かが死体まで確認したわけじゃ無いから,MAから脱出した後でどうなったかまでは
判らないよ。最後を目撃したという連邦パイロットの証言だって,中将の背後に『不気味な黒い影
を見た』とか混乱した事を言ってて信用できる報告じゃないからね。(笑)」
「じゃぁ,やっぱり。」
「確かに,中将閣下が生きていれば,『赤い狐』の戦後は大変助かるんだけど,でも,ヴェルナー
伍長も助けたいなぁ。」
「実は,まだ決めかねているんでしょ?」
「ははは,実は『謎のまま』という事にしておいた方が,後々便利なのさ。」
「じゃぁ結局,全然『IF戦記』になっていないじゃないの!!」
「そうかな?ありとあらゆる『資料』で,『戦死した』事になっている人物を『生死不明』にする
だけでも,充分だと思うがなぁ。
例えば『黒騎士』がピルツで,『****の悪夢』大尉にひとこと『生きている。』って伝えれば
『この宇宙に光をもたらす,その日まで…貴公の命,儂が預かった! 』
『その日まで,私の命,お預けいたします。』てな話には,ならないと思うよ。」


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