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赤い狐(策動編)第5話 投稿日 : 99年9月27日

地球を挟んで,月の反対側,つまりラグランジュ第3点軌道上の連邦軍宇宙要塞は静かであった。
金米糖と傘の攻略が完遂した今,連邦の宇宙反攻を支えた軍事拠点としての意義は著しく低下し,民間
の軌道工場が利用できる現状では,その内部の非効率的な宇宙工廠も存在の意味を無くしていた。
いや,もはや巨大な宇宙工廠は不要であるとすら考えられつつあったのだ。しかし………,

公国軍の旧式な巡洋艦『エムデン』号は,暗礁空域を通って,要塞に近づきつつあった。
大戦中に撒布された粒子の濃度が極度に濃いところをぬっての行動であり,新たな粒子撒布は行わずに
接近を図っていた。MS用デッキでは,6機のMSが整備を終えつつあった。
そして,作戦艦橋では………

「巨大な要塞に,MSによらず,ノーマルスーツ装備の宇宙歩兵として肉薄,これを攻撃する。これは
先の大戦中でも行われ,極めて有効な戦術で有ることが証明されている。義勇兵として戦いに参加した
諸君らは,MSパイロットとしては有能であることを,先のシャトル脱出支援作戦で証明した。今度は
兵士としても,度胸があることを証明してもらう。」
イヌマ中尉は新たに部下となった『新・白虎隊』のメンバーを前に訓示を垂れていた。
選抜された突撃隊員達の顔には不安げな表情があがっている。

「なに,敵の要塞と言っても,今は戦略的に重要な意味を持っていない辺境の基地に過ぎない。実戦を
経験した敵兵がいるかどうかも怪しい。なにしろ,連邦軍は月の裏側が怖くて,かなりの兵力を,月と
『ピルツ』に配置している。大戦中に突撃隊員が敢行した作戦に比べれば,留守を狙うようなものだ。
よほどのヘマをせん限り,やられる事は無いと確信しろ。この作戦で,俺は一兵も失うつもりは無い。
まぁ,気楽に連邦要塞の見物に行こうじゃないか。」

隊員たちの間の緊張がほぐれたのか,クスクス笑い声があがる。
「よし,作戦30分前だ。各員配備につけ!」
部屋から隊員たちが飛び出して行く。しかし,その動きは,兵士の持つ敏捷さとは異なり,いかにも,
昨日今日になって軍隊に入ったというのが見て取れた。

エムデン艦長ミュラー少佐がイヌマ中尉に同情して言った。
「まさか,初陣を終えた後で軍事教練をさせねばならんとは,難儀なものだな。」
「お言葉ですが,3月後には少佐殿も同じ苦労をする事になると思いますよ。サイド6製の巡洋艦が,
大量に配備され始めます。たぶん,商船乗りあがりの義勇兵が乗り組むと思いますが,一人前の水兵に
なるのは当分先でしょうから。」
「おいおい中尉,怖いことは言わないでくれよ。」

作戦自体は当初の予定通り,なんらの支障も無く終わった。
突撃隊員が,途中の監視哨を3箇所潰して潜入,油断しきっている要塞の出入り口各所に感応機雷数発
を設置し脱出,その後MS部隊が接近,出撃してきた戦艦1隻,巡洋艦2隻を轟沈した。
さらに,迎撃に出撃してきたMS部隊も,港が塞がれ,後続の部隊が出撃不能となったため,積極的な
攻撃に出なかった。
突撃隊員を回収するまでの間,ベテランの操る09RIIは,連邦GM機を翻弄しつづけて,中破2機,
小破5機の戦果をあげ,撃退した。やはりビーム砲でなければ,一撃必殺は困難なようである。

「よし,突撃隊員の収容を完了。直ちに離脱する。MS隊にも脱出するよう伝えろ。」
「了解!」
そこへ,突撃部隊を率いていたイヌマ中尉が戻ってきた。
「いや,参ったよ。連邦軍ときたら,ウチの新米より練度が低い。これじゃ,訓練にならないよ。」
「白兵戦をやらかしたんだ,クソ度胸はついただろう。一応目的は達したと見るべきだな。」

そして,連邦軍要塞を後にした巡洋艦エムデン号から電信が発せられた。
『ワレイマ,るな2ヲ去ラントス。用ナキヤ。』
連邦軍に,このジョークが通じたかどうかは定かでない。
……………………………………………………………………………………………………………………………
「また,趣味の悪いミリタリーネタが出たわね。作戦自体もオリジナリティに欠けてるし。」
「いやいや,こういう地道な作戦で連邦軍の目をそらし,いよいよ本懐を遂げるための作戦準備にとり
かかるのさ。」
「ところで,今回は09RIIに,ご自慢のビームバズーカは装備してないの?」
「旧式の巡洋艦エムデン号には,E−CAP充填の装備改修が間に合わなかったんだよ。次回登場時に
は,ビームバズーカの設定の秘密が明かされるのだ。」
「なんか,偉そうに言うことでも無いと思うんだけど。」


赤い狐(策動編)第6話 投稿日 : 99年10月4日

グラナダ市議会議事堂は騒然としていた。

「閉廷だ。閉廷しろ!!」
「女を黙らせろ!これは事実無根だ。公国の陰謀だ。」
「早く被告を連れ出せ。」
「撮影・録音を中止させろ!中継は全部カットしろ!」
「こら,押すな!」

その騒ぎの中,一人の男が彼女のそばに忍び寄っていた。男の異様なまなざしは,しかしこの混乱の中
では誰にも気づかれなかった。そして,男は懐に忍ばせていた拳銃を取り出す。

「サイド2の恨み,思い知れ!!」
拳銃は2発発射され,いずれも彼女の腹部を貫いた。地球の6分の1しかない重力に逆らい彼女の体が
宙に舞う。男はたちどころに捕り押さえられた。だが,しかし彼女は………

「医者だ!医者を呼べ!!」

この混乱の極みに乗じて,一組のマスコミが彼女のそばに近づいていた。
しかし,さすがにインタビューができる状態ではない。だが,集音マイクの焦点は彼女の口と喉に照準
を合わせていた。

「おのれ,ジャミトフ・ハイマン……,」
だが,結局録音できたのは意味不明のこの言葉だけであった。

彼女は,市内の救急病院へ運ばれる事になった。市議会議事堂から救急エレカーがサイレンを鳴らして
走り出す。そして,それを追う一台の車があった。運転しているのは,体格から一見して軍人とわかる
二人の男である。

「あれだな。」
「間違い無い。いくぞ!」
二人は武器を片手に取り,エレカーの速度を上げた。そして,救急車を追跡しながら,道路状況を選ぶ。

「今だ!」
邪魔になる車両が居なくなった隙に急加速,救急車の前に出る。そして運転席目掛けて自動小銃を連射。
ドライバーは絶命し,車両は安全装置が働き,路肩に停車する。
異常に気づいた兵士が後ろから降りてくる。だが,彼らの動きは無防備に過ぎた。
待ち構えていた二人の元海兵の攻撃に,たちまち全滅する。

「間違い無い。姐さんだ。」
患者を確認すると,二人は救急車を奪い,宇宙港への道を辿り始めた。

だが,救急車に限らず,この都市の公用車両には全て,交通管理局で所在がわかるように,ビーコンが
設置されており,その情報は連邦軍にも通じていた。直ちに追跡隊が組織され,宇宙港からは待ち伏せ
の部隊が出動した。

しかし,結局,捕虜を奪還する事は出来なかった。
逃走を図った救急エレカーは宇宙港内に逃げこんだ挙句,水素燃料タンクに激突炎上したのだった。
港の消防隊が鎮火した後,車内から3名の死体が発見された。二人は男性,一人は女性である。
いずれも,焼け焦げて判別もつかない状態であったが,身元確認は意外と簡単に終わった。
女性の方は,腹部に残っていた弾丸の旋条痕(ライフリングマーク)が議事堂で取り押さえられた男の
持っていた拳銃のものと一致したこと。そして,男性の方はもっと簡単に,身につけていたドッグタグ
から,元公国軍海兵の最後の生き残りと判明した。そう,彼女が審問の最中に,部下達への情状酌量を
訴えていた時には,彼女の機動巡洋艦『サイレン』以下の海兵隊は,この二人の脱出者を除いて,全滅
していたのである。
……………………………………………………………………………………………………………………………
「まさか,誰も信じてはいないと思いますが,救急車の運転手と護衛の兵士以外,今回は誰も死んでは
いません。念のため。もちろん,『サイレン』は沈みましたが,『L・マリー』は無事です。」
「じゃぁ,Cimaって名前も変えなきゃね。」
「ところが,色々と考えたんだけど,なかなか良い名前が無いんだ。」
「でも,新しい名前を付けても,使うかどうか判んないじゃない。」
「よく考えてみたら,赤い狐の新しい名前だって,まだ出て来てないぞ。」
「実はそっちもまだ,決めてないんでしょ。」


赤い狐(策動編)第7話 投稿日 : 99年10月11日

ZION国民党(共和国革命政権)の選挙対策本部では,ダルシア現首相以下の閣僚が不機嫌そうな顔
を揃えていた。

「80%以上の勝ち目があるという事で,解散総選挙の許可を連邦政府から取り付けたのだぞ。これで
勝てませんでした。では済まんのだ。」
「しかし,ドルゲ教授が帰国していたとの情報は有りませんでした。もし,判っていれば革命政権内部
へ取り込んで,我々との協調路線を取らせる事が出来たのですが。」
「大体,先月からの連邦の動きがまずすぎる。やれ,『サイド6で毒ガスを使った』だの『先の大戦の
コロニー市民虐殺は連邦が糸を引いていた』だの,連邦との協調路線を打ち出して復興を目論んだ我々
には,都合の悪い情報ばかりだ。」
「ところで,『ノバ・ソリマ』の情報は,まだ入って来ないというのは本当かね?」
「連邦軍の治安部隊からの連絡はあったようです。なんでも,ブラックバーン中佐達は極秘裏に宇宙船
でコロニーを脱出。治安部隊は既に撤収したとか。」
「ガス攻撃というのは?」
「連邦の発表では,『デモ隊に無気力化ガスを使用したが,市民には死傷者は無かった。』という事に
なっていますが,その後,コロニーとの連絡は途絶えたままなので,誰も信じていません。連邦の発表
では『大規模な通信テロだ』との事ですがね。とにかく,民間レベルの通信が回復しない事には濡れ衣
は晴れませんよ。大体,『事態は解決した。』という報告をしているハミルカル市長の映像も『連邦の
偽造した贋ものである』と,信じてる連中がいますからね。」
「例の海兵隊指揮官も,言いたいことだけ言って死んでしまったし,いまさら替え玉を仕立てあげて,
『あれは,嘘でした』と言っても,誰も信じないでしょうな。」
「それどころか,コロニー公社の調査で判明した事らしいのですが,BC兵器で壊滅したコロニーに,
昔のソヴィエト連邦のマークがついていた毒ガスボンベが残っていたらしい。ご丁寧に,その『赤い星』
だか『鎌と槌』だか知らんが,そのマークを消してその上に我が公王家の紋章を描いたものまで有った
そうだ。連邦はこの事実を押さえようとしているが,マスコミに漏れるのも時間の問題らしい。」
「我々が知っているという段階で,もはや手遅れだよ。」
「物的証拠まで捏造してあったのか?かなり計画的だな。なんとか手を打って,総選挙で我々が勝利し
ないと,その後で連邦軍の介入を誘うことになるぞ。」
「そうは言っても,連邦の株を上げるような事はそうすぐにはできんぞ。いっそ,連邦との協調路線を
破棄して,選挙に臨んだらどうかな?」
「連邦との再戦を公約に掲げるのか?それこそ,すぐに連邦軍が介入してくる。」
「そもそも,ドルゲ教授らのようなダイクン派の重鎮がいまさら出てくる事は予想していなかったんだ。」
会議は,結局愚痴のこぼしあいに終始し,建設的な発意はなされず,時間ばかり過ぎていった。

そして,会議が煮詰まり,どうしようも無くなった頃,秘書官が慌ててノックも無しに飛び込んできた。
「首相,大変です!ドルゲ教授への応援演説が始まるそうです。」

「いまさら,それが何だね?また新しい旧ダイクン派が登場したのか?」
「そっ,そうです。『赤い……,いや,何とお呼びすれば良いのか?とにかく,御覧頂ければ判ります。」
そう言って,秘書官は会議室のメインモニターを表示した。

そこには,真紅の軍服をまとったあのエースが,仮面をはずして立っていた。

「若い頃のダイクン氏に,ちょっと似とるな。」
誰かが頓珍漢な感想を漏らした。
「似ていて,当然です。彼はその息子だと名乗っているんです。」
……………………………………………………………………………………………………………………………
「なんだか,今回はおっさんが集まって,ぶつぶつ不平不満を言うだけの話ねぇ。」
「すいませんねぇ,なんだか,謀略編の種明かしだけの話になっちゃいました。」
「それにしても,ソ連軍だったのね。ナチス・ドイツだと思った人も居たんじゃないかしら?」
「でも,第4話で『中央アジア』って,言っちゃったから,ばれてるよ。」
「ひょっとして,ガスのボンベも本物の旧ソ連軍のを流用してたりとか?」
「まさか?130年近くもたってるんだから,容器は使えないよ。きっと」
「どうせ,中身は入ってないんだから,大丈夫よ。」


 

虎ノイ(192) 題名:赤い狐(策動編)第8話

部屋には3人の男が居た。
一人は連邦軍大尉の軍服を着たいつもの男であり,もう,一人はこの部屋の主であるソーカルグループ
の会長グルベンキアン卿であった。そして最後の一人は,自慢の赤い軍服を,目立たないように,白い
スーツに着替えた「大佐」であった。

最初に,口を開いたのはグルベンキアン卿である。
「そろそろ,君の演説が始まるんじゃないのかね?」
「そうですね。こうして私がここに居ることを考えると,ちょっと変な気分ですよ。」
白スーツ姿の大佐が答える。

TVのチャンネルを草の根ネットの演説中継にセットした男が戻ってくる。
「やはり,大手の放送局は放映を見合わせたようですね。」
さすがに,公営放送はこの中継を取材こそしているものの,中継はしなかった。だが,視聴率は市民の
ボランティアが提供するこの生放送が独占しているに違いなかった。

「本来なら,『大佐』に自ら立っていただきたかったのですが,連邦の動きに少々不穏なモノがありま
したので,急遽代役を立てさせてもらいました。少なくとも,共和国の内政と警察力を掌握してからで
なければ,『大佐』を表には出せませんよ。」
「まぁ,国民の誰一人,私の素顔を知らなかったというのは,この際ラッキーだったと言えるな。」
「戦場や,国政の場でならともかく,選挙演説程度なら代役で充分ですよ。もっとも,こういった裏技
は,今後は許されなくなるでしょうが。」
「無論だとも。」

「ところで,先生?共和国は当分の間,先生らの戦いを,直接支援することは出来ませんが,それでも
構いませんか?」
「問題ない。現状の共和国戦力を当てにした作戦は立てていないからね。出来れば,必要最低限以上の
軍備を廃棄する事を宣言して,一方的に軍縮してもらっても良いくらいだ。」
「なるほど,兵士達の再就職先は,いくらでも用意していただける訳ですね。」
「それと,古い戦艦や,MSはスクラップとして,ソーカルグループが引き取るぞ。戦後復興と地球圏
の平和のために,有効な利用方法はいくらでも考えてある。」
「宇宙には,有害・危険なゴミがたくさん漂っています。これを大掃除する必要がありますしね。」
「ですが『大佐』。あくまで,共和国は平和理に事を進めて下さい。我々の活動も,サイド3の市民を
人質に取られるような事になれば,計画は破綻してしまいます。」

「判っていますよ。正論として,領土の返還を連邦に要求します。これは,先生が準備されておられる
『モンス・メグ』奪還作戦とは,無関係の行動ですよ。もちろん。」
「おや,もう御存知でしたか?ということは,連邦にも,そろそろ知られた頃でしょうね。」
「やはり,ダミー作戦ですか。」
「当たり前ですよ。あんなモノを取り戻しても,我々には当分は使い道が無いじゃないですか。それに
しても,連邦もアレを返せと公式に要求されたら,困るでしょうね。『元々自分達の物だったのを平和
目的に使うから返せ』といわれて,『イヤ,あれは軍事用に研究したいから駄目』って断ったら,どこ
からどう見ても,連邦が悪者ですよ。」

「おぉ,君の演説が始まったぞ。」
……………………………………………………………………………………………………………………………
「ねぇ,『モンス・メグ』って何?だいたい,ニュアンスからして,アレらしいって判るけど?」
「中世の時代の大砲の名前だよ。昔は巨大な大砲は『ドラゴン』に喩えられたりして,1門1門に固有
の名前がついていたんだ。『メグ』は,その中でも割と有名な大砲らしいよ。イギリスに行けば,見る
事ができるらしいし。」>エジンバラ城にあるそうです。
「ところで,アレって,返して貰っても,すぐには使えないわよね。」
「まぁ,そうだね。でも,あのコロニーがあんな事になっているなんて,普通の人は知らない筈だから,
外交交渉のネタになるんだよ。」

Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.0; Windows 98) 投稿日 : 99年10月18日<月>02時17分


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