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赤い狐(策動編)第9話 投稿日 : 99年10月25日

彼は自己紹介を簡単に済ませると(それでも,彼の今に至る複雑な経緯を説明するには,少しばかりの
時間がかかったが)共和国の市民に向かって語り始めた。

「私が,今ここに居ることによって,父の再来と考える方々もおられるかもしれません。
しかし,私は,父のように『人の革新』を語るほどには,まだまだ人間が出来ていません。
今日ここに姿を現したのはひとえに,来るべき選挙において,共和国の人々が正しい選択を行えるよう
にドルゲ教授の人となりを語り,その政治能力の慧眼さを語るためなのです。

さて,教授はこう説いています。
『国家とは国民の生命・財産を守るために存在するものであり,政府はそれらを確実に行うために強力
な権限を与えられているのである。』と。
はたして,臨時革命政権はその能力を有していたでしょうか?いや,その能力を行使しようと働いたで
しょうか?
答えは否です。
休戦協定では,『連邦政府は共和国政府に対して,戦時賠償を要求しない。』と,謳ってあるのです。
しかるに,共和国政府は,建国以来の,いや,それ以前からの,第3バンチという由緒正しいコロニー
『マハル』を,連邦に割譲する事を決定しています。マハルが我が共和国固有の領土であり,公国時代
の外征によって他国から奪取したもので無いことは,誰もが知っている事実です。
確かに,大戦末期に国防上の理由から疎開の大命が下され,軍事施設として徴用されたのは紛れも無い
事実です。しかし,戦争が終わった今こそ,その不要となった施設を取り壊し,再び市民が住めるよう
取り計らう。これが,政府が為すべき,いや,為さねばならなかったことなのです。

父の死後,ドルゲ教授は,共和国の有るべき姿を模索し,地球に降り立ち,連邦の高官や政治学者らと,
粘り強い交渉を続けていたのです。その結果は,連邦に反逆を企てるものとして疑われ,疎まれ,欧州
の監獄に10年の永きに渡り囚われることとなったのです。
昨年末,義勇兵の一団が収容所から教授を救い出した時,教授は満足に立ち上がることも出来ないほど
衰弱していたと聞き及んでおります。この間,教授はお一人で戦っておられたのです。

もちろん,公王家も戦って来ました。父が目指したものとは,少し異なる形となりましたが,その事は
問題ではありません。国家を,国民の生命や財産,そして自由を守るために戦い,そして倒れたのです。
それに引き換え,臨時革命政権のメンバーはどうでしょうか?彼らは今まで戦ってきたのでしょうか?
その答えもまた,否です。
彼らは以前は公王家に仕え,そして,今度は連邦政府に仕えようとしているのです。」

彼の演説はまだ続いていた。
しかし,ダルシア首相以下その部屋の誰もが,もはや深く聞き入ってはいなかった。
「負けたな。これでは勝ち目は無い。」

全員が深い虚脱感を感じていた。
「我々がこの半年間,して来たことは,何だったのだろうか?」と

「また,戦争を始めるつもりなのか?」
「公王家再興では無いのだから,それは無いだろう。58年からやり直す事になるんじゃ無いかな。」
「だが,連邦の軍事力は当時とは全然違うぞ。」
「そうだな,しかし,それを考えるのは,もう我々の仕事ではない。願わくば,あのエースが政治力で
も優秀である事を祈るばかりさ。」

こうして,ZION国民党の選挙対策本部は,投票日を前にして,解散も同然という状態になった。

世論調査では,ZION国民党の支持率は逆転して,ドルゲ教授のZION自由党の支持率が90%を
超えていた。もちろん,かのエースへの期待がこの結果を生んだのである。
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「うーむ,変な演説をさせてしまった。」
「何が変なの?言っていることは正しいじゃない。もっとも,偽者らしいけど。」
「いや,Sャアが演説で,こんなしゃべり方するかな?と思ってね。」
「そうかしら,少なくともZでの演説(ダカール)よりはマシじゃない?です・ます調がいきなり,
だ・である調に変わったりはしてないし。」
「たぶん,あの時は准将が演説するはずだったのに,暗殺されて急遽御鉢が廻ってきて,あがっていた
のかもしれないね。『逆〜』の時には,もう手慣れたものだったんだろうけど。」


 赤い狐(策動編)第10話 投稿日 : 99年11月1日

「旦那様。画廊『富士山』とおっしゃる方から,大尉殿へ至急との連絡が入っておりますが。」
グルベンキアン卿の秘書が,古風な電話機を携えて部屋に入ってきた。

「それは,私あてだ。ありがとう。」
例によって,美人秘書に色目を使いながら受話器を受け取ると,男は話し始めた。

「急ぎの用とは何かな?フェードラー君。」
「例の骨董屋の隠れ家が判りました。今日中に身柄を拘束できます。」
「でかしたぞ。一体どうやったんだ?」

「フォン・ブラウンに大佐の名前でアパートを借りてました。ここを探っている妙なのが2組いまして,
両方とも泳がせたところ,片方は連邦軍のスパイ,もう一方は奴のアジトまで案内してくれました。」
「うむ,上出来だ。そうだ,その私の家を焼いて,奴との抗争で,私が死んだように偽装できるか?」
「なるほど。で,私らが先生の敵討ちをして,先生と骨董屋が共倒れになった風に見せかけるんですね。」
「そうだ。それで,連邦もあきらめてくれると助かる。」
「奴の隠し資産への追求は止まらないと思いますが,確かに先生への追跡は終わるでしょう。」
「それでOKさ。連邦軍には,せいぜい有りもしない財宝を探し回ってもらおう。じゃあ,『赤い狐』
を派手に焼き殺してくれ。任せたぞ。」

「おや,『先生』。では,あの大佐が持ち出した資源というのは,一体何処に?」
話を横で聞いていたグルベンキアン卿が尋ねる。

「鉱物資源という物は,個人が隠そうとしても隠し通せるものでは無いのですよ。ある程度以上の組織
力が無いと,すぐに突き止められてしまいます。奴が隠したつもりの資源のほとんどは,年明け草々に
元総帥閣下の親衛隊長の部隊に押収されてしまってます。ナニ,隠し場所を教えたのは私ですけどね。」
「では,今は『茨の園』という訳かね?」
「一部はそうですが,卿の工場で組み立てている戦艦や,MSの原料にもなっています。もちろん,月
のカーバイン卿の工場にも渡っています。あっちではトンデモ無い物を組み立ててますよ。」

「それは,私が乗った機体のさらにパーフェクトな奴ですか?」
白いスーツ姿の『大佐』が,話に割り込む。
「いえ,残念ながらパイロットが居りませんので,例の巨大Z機ですよ。おや,ところで,そろそろ例
のニュースが流れる頃じゃないのかな?」

「そのようじゃな。どれ,サイド6にも気合を入れてもらわにゃならんな。」
「『先生』?一体,何が始まるんですか?」
「見れば判るよ。」
いつのまにか民間ボランティアネットワークの選挙演説中継は終わり,地域密着情報等のローカル番組
を流していたTV画像が突然切り替わった。「臨時放送を開始する」とのテロップが流れる。

「リーア州全土の皆さん。本日,今からお話することは,極めて重大なことであり………」
ランク・キプロードンが静かに語り始めた。
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「例の骨董屋というのは,もちろんアノ『壷』の大佐よね。」
「そのとおり,無視しても良かったんだけど,資源だけは使っている設定だから,どうにか決着をつけ
ておいた方が良いかな,とも思ってね。」
「身柄を拘束して,どうするの?」
「それは,秘密。ただ,何故『仇討ち部隊』に補給が届かなかったかを,キリキリ教えて貰うために,
色々と痛い目にあうかもしれない。」
「そういえば,そんな話もあったわね。怖い話になりそうなので,詳しく聞くのは止めとくわ。」


赤い狐(策動編)第11話 投稿日 : 99年11月9日

州政府首相が発表した内容にリーアは震撼した。

それは,『連邦軍によるリーア州に対する毒ガス攻撃計画が存在した事実が確認された。』というもの
であった。幸いにも,この計画はリーア州政府の働きかけと,連邦首脳部の判断により中止されたが,
作戦そのものは「上層部の許可さえあれば,何時でも実施できるまでに準備がなされていた」らしい事
も判明し,市民に恐怖を与えた。

州政府は,この件について,かなり詳細な情報を入手しており,攻撃の対象なったコロニーのバンチ名,
使用されるガスの種類(開戦初頭に,公国軍が使用したとされるGGガスの能力をさらに上回るG−3
ガスが準備されていた。)搬入方法,作戦に従事する予定だった部隊名等も判明していると報道された。

サイド6が独自に入手したとされる,R将軍により決裁不諾の印が押された,作戦計画書表紙のコピー
も公開され,それには,作戦計画を立案し,自らその指揮を執ろうとした連邦軍大佐の名前があった。

その名前は,市民達にも,まったくの初耳な名では無かった。
グラナダで死んだ公国軍海兵隊指揮官が,最期にしゃべった人物の名前と同一であったからである。

公式な政府発表の後,禁を解かれたマスコミの,狂ったかのような反連邦キャンペーンが始まった。
依然連絡の取れない『ノバ・ソリマ』での事件との関連を語る有識者,全滅したコロニーから発見され
たガス容器に刻まれていた,昔の地球の連邦国家の紋章の話をするサルベージ業者,そして地球に降り,
現地取材を試み,中央アジアの古い(ほとんど遺跡と呼んでも良いような)毒ガス保管施設の記録から,
0078年末に容器が搬出された事実を発見した事を話す歴史学者,それら皆,連邦軍によるコロニー
国家へのガス攻撃が,単なる被害妄想ではなく,歴然たる脅威である事を,充分な説得力をもって市民
に認識させていた。

激昂するTVの音量を下げ,グルベンキアン卿が話を始めた。
「これで我々は引き返せなくなった。連邦軍を倒すか,それとも毒ガスに怯えて,連邦のいいなりか?
前者を選択したわけだが,これで正しいのか今も迷っている。はたして,連邦を倒した後で,復興した
公国が地球圏を支配しているのも困るしな。」

「そのために,私と『大佐』との連携を考慮したのです。新共和国は,直接には戦闘に関わりません。
地球連邦を滅ぼす者と,それを再建する者が居て,初めて地球圏の安寧を図ることが出来るのです。
公王家の名前で地球圏を支配する事は,今更不可能でしょう。しかし,大佐の父上の名前なら,まだ,
世界をまとめ上げる力がある。その名前を,くだらない大量殺戮で汚すわけにはいきません。」

「もう勝った後の話とは,頼もしいですね『先生』。」
未来の共和国総帥が揶揄するように言う。

自分の頭を指さしながら,男が答える。
「作戦計画だけなら,去年からここにありましたよ。絶対勝てる奴がね。それに卿も,私達が勝てると
判断されたから,ネタニヤフ中佐の部隊のために,船やあの器材を提供してくれた訳ですよね。後は,
誰にも妨害されずに作戦を実行できるかどうかだけです。」

「中将閣下,いや,新公王陛下とお呼びすべきじゃな?彼を頭領に戴く限り,今後は『先生』の作戦指
導に異を唱える連中はおるまいて。例の骨董屋とやらも,片づいたようだしの。」
「はい,最強の旗印です。もう,御自分でMSに乗って出撃される事はないでしょう。」

「それはどうかな?案外,『御忍びで戦場視察』なんて事をするかも知れませんよ。」
「『大佐』,怖いことを言わないでくれよ。」
そう言いながら,男は笑った。

さて,この時既に,新公国軍に編入された近衛第二艦隊は,連邦が占拠中の旧公国軍要塞に接近しつつ
あった。そして,まったく別の宙域でも艦隊が器材を展開させていた。
『グロース・シルム』と呼ばれた作戦が始まりつつあったのだ。
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「『謀略編』『策動編』と,陰謀劇が続きましたが,やっと終わりました。いよいよ次章から,ゲリラ
戦では無い,本物の戦争が始まります。」
「『シルム(傘)』というからには,例の『勝利の塔の妖怪』がらみの話になるわけ?」
「それは,秘密。ただ,謀略編でいくつか伏線をはってるので,そちらから推察すると………」
「謀略編なんて,伏線だらけじゃないの!


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