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赤い狐”第7話

「予定通り,艦艇はいないな。」
U−99の潜望鏡を覗いていたクレッチマー少佐がつぶやき,命令を発する。
「ズゴック発進,大佐の援護に当たれ。陸戦隊の上陸準備も急がせろ。」
ユーコンから2機のズゴックが出撃し,カラチ港の連邦軍基地へ向かう。

一方,陸上輸送ルートの破壊工作を終えた”赤い狐”はほとんど空になった
ゲペックカステン(注)を捨て,身軽になって,カラチ基地へ向かう。
「基地の戦力は,GMの2個中隊よ。たった3機のMSでどうするわけ。」
「細工はしてある。半分は贋の情報に踊らされて,艦隊とホルムズ海峡に出動中だ。」
「でも残りは12機以上よ。」
「落とした鉄橋と橋の修理の護衛にそれぞれ1個小隊がつく。残り2個小隊,2対1なら
充分勝ち目がある。」
「あなたって,狐っていうより狸じゃないの。」
「おしゃべりは終わりだ。バズーカは任せるぞ。」

戦闘はあっけなく終わった。
基地の守備に残っていたのは,訓練を終えたばかりの新兵ばかり,少しでも使えると判断
されたパイロットは宇宙に上げられていたらしい。
歴戦のベテランが操縦する2機のズゴック,右腕のバズーカで牽制し,左腕でシュトルム
ファウストとヒートホークを使い分けるザクMS−06Tの前には,出撃中の部隊が帰還
するまでの時間稼ぎすら不可能であった。
MSの制圧下,陸戦隊による基地の占領はほとんど抵抗なく完了した。

「ふーん,”ギレンの野望”のワンシーンみたい。」
「忙しいんだ。無駄話は後にしてくれ。」

*注 ゲペックカステン(独語):Gepack Kasten
=荷物箱,WWU独軍戦車の砲塔後部についている雑具箱。ギレンの野望,オデッサ占領
時のVTRで旧ザクが背負っていたコンテナに付けた”俺設定”用語。


”赤い狐”第8話

カラチ基地から「橋梁がジオンに破壊され,当分の間は陸路から補給を受けることが困難
となった。」との報告を受けたマドラス司令部は空路より補給を行う事とした。ミデア輸送
機2機の派遣が決定され,駐留艦隊が当面必要とする物資を輸送するため飛び立った。
輸送機が到着予告の通信を行うと,カラチ基地からは「現在,ジオンのMSが来襲,交戦
中であり,しばらく待機せよ。」との連絡が届く。やがて,基地の守備隊が敵MSを撃破
したとの連絡とともに,着陸許可が知らされた。
滑走路の脇では不運にも損傷したらしいGMからパイロットが出てきて,手を振っており,
撃破されたジオンのMSから敵のパイロットが脱出して,兵士の銃に向かって両手を挙げ
ている。そういう情景を眺めながら,通常の手続通りにミデア輸送機は到着した。
そして,
「煙を噴き倒れていたはずのズゴックとザクが起きあがり,銃口を向けた時のミデア乗員
の驚きようはなかった。」と当時の陸戦隊員は述懐している。

「大佐,お気をつけて。」
物資搬入に忙しいはずのクレッチマー艦長が,ミデアで出発する”赤い狐”の見送りに
来ていた。(ユーコンは連邦軍の潜水艦を元に設計されており,連邦軍規格の補給物資
をそのまま使え,こうした捕獲物資で一年戦争後も戦い続けることになるのである。)
「少佐こそ。ところで,頼んでいた仕掛けはどうです。」
「時間がないので,あまり手間はかけられませんでしたが,たぶん大丈夫でしょう。」
「では,また。」

ミデア輸送機はカーブルに向けて発進した。
「うーん,だんだん謎の核心に迫っているのね。ところで,今の会話は何なの。」
「今にわかる。私が怖ろしい男だということさ。」


”赤い狐”外伝2 戦士達の友情

TVのニュースは地球攻撃軍の司令官であった大佐の死を報道していた。
しかし,そこにいた誰もが,今更その知らせには動揺などしてはいなかった。
ここは古代ユダヤの王の名を冠した宇宙要塞の一室。士官用の酒保である。
国民へ報道が流される前から,総司令官閣下がどれだけ気を落とされていたかを誰も
が知っていたのだ。
あのエースの誉れ高き少佐が軍籍を剥奪されただけですんだのは,部下達が精一杯宥
めたからであり,一歩間違っていれば,死刑になるところであったのだ。

小柄な,しかし精悍な男が入ってきて男の脇に座った。
「地球行きが決まったよ。弟君の仇討ちだ。」
「それは,栄誉に浴したといっていいのかな。おめでとう。」
「新型機と新しい巡洋艦を頂いた。必ず木馬は仕留めてみせる。」
「凱旋したら少佐,いや中佐かもな。そして,彼女と籍を入れるのかな?」
「そっ,それは・・・」
戦争のプロが照れている。
「早くしないと,夫になる前に親父になるぞ。」
「お,お前こそどうなんだ,出撃訓練に閣下の奥様の侍女とタンデムしたとかいう噂
話を聞いたぞ。」
「ああ,あの子ね。もう終わったよ。」
「結局ただのつまみ食いだったのか。レイラ嬢がいないと,とことん駄目な奴だな。」
「あの女の話は止せ。借りがいくらあったか忘れようとしてるのに。」
「なら,俺と彼女の事にも口出しをするな。」
「わかったよ。せいぜいお前が地球に降りている間の面倒はみるよ。」
「実はな,また一緒に降りるといってきかんのだ。」
「今度もか? いいじゃないか。新婚旅行気分で。」
「まあな。わはははは」

「では。打倒木馬と二人の仲の益々の発展を祈念して!!」         チン

この日,グラスを交わした二人が再会することはなかった。
「そんなの誰だって知ってるわよー。」


”赤い狐”第9話

後方に閃光が走った。
「え,なに」
「どうやら,出撃中の艦隊が帰ってきたらしい。」
「まさか,核?」
「ただの気化爆弾さ。私はマ・クベ大佐とは違うよ。」
連邦軍カラチ基地は帰還した艦隊と共に消滅した。
それをよそに,ミデアは一路カーブルへ向かう。
「カーブルに一体何があるの?」
「ドースト・モハメッドという人物を知っているか?」
「???誰,それ???」
「1828年にアフガニスタンの王位に就いて,バーラクザイ朝を開いた王だぞ。」
「知らないわよ。IQ240のギレン総帥だってヒトラーをよく知らなかったのよ。」
「なら,いい。着いてから説明する。」
「でも,なんでそのモハメッドとかいう王様とマ・クベ大佐の鉱山が関係あるの?」
「マ・クベ大佐は骨董が趣味でな,あちこちの遺跡を”鉱物資源探査”の名目で発掘
していたらしい。」
「わかったわ。その王の墓から”北宋の壺”なんかを掘り出したのね。」
「別に,墓場荒らしをしたわけじゃなかろうに。だいたい,墓場荒らしは,今じゃ
サイド1とかの滅んだコロニーで行われているらしいぞ。」
「聞いたことあるわ。全滅したコロニーに侵入して貴金属等の金目の物を漁って来る
連中ね。コロニー1基でちょっとした国ほど住んでたわけだから,随分あるはずだわ。」
「もちろん,違法な行為だから捕まったら重罪だ。」
「でも,ジオンの軍人はその上前をはねてるって・・・きゃっ,その眼,怖い。」
「・・・それは,誰がだ!!!」
「だって,シャアの金塊・・・」

「大佐,着きました。カーブルです。」

「確かに,あなたが怖い人だって判ったわ。謎にもちょっとだけ迫れたのかしら。」
「次回は最終回,ついに”狼がなぜゲルググなのか”の謎が解けるはず。」
「ホントに解けるんでしょうね?」


”赤い狐”第10話  ”前編”

マ・クベ鉱山を7つも探し回ったあげく(その中のいくつかは連邦の攻撃で完全に,
埋まっていた。ザクが無ければ,入り口を掘り起こすことすら不可能であったろう。)
当てにしていた手がかりはひとつも得られなかった。
郊外にザクを隠し,市街地に入る。
カラチで入手した連邦軍の軍服に怪しむ者は誰もおらず,赤い狐は現地住人から情報
収集をはかる。
「大失敗だ。バーラクザイ朝ではなかったんだ。ドースト・モハメッドが王位に就き
モハメッド朝という王朝の名前が確定したらしい。バーラクザイは出身の氏族の名称
ではあったが,その後の王朝名にはならなかったんだ。」
「どうでもいいけど,そういうことが現地調査で判るってのは,何か変よ。」
「変なものか。王の墓は市内にあって,市民の憩いの広場になっている。」    <注 これは信じないこと
「じゃあ,マ・クベ鉱山なんか全然,関係無かったの?」
「まあ,そういうことになるな。これでついに”ゲルググと怖れられた王子”の謎が
解明出来るわけだ。」
「王子がゲルググと怖れられたっていうのは,その王様が幼い時のあだ名なわけね。」

「ちょっと,なんで”前編”なの?まだ続くの?」
「すまんな。長くなりすぎたので分けた。」
「そんな,いくら第10話だからって,前後編に分けなくても。」
「ちなみに後編の発売は12月の予定だ。」            <まさか,4月になるとは思わなかった。
「それは08小隊の話でしょ!!」


”赤い狐”第10話”後編”

しかし,墓碑の碑文にはそれらしい記述はなかった。
「どういうことよ?」
「ひょっとすると,ゲルググというのはあまりいい意味では無いのかも知れないな。
仕方ない。アンチョコを使おう。」
男はポケットの中から1冊の文庫本を取りだした。
書名は「河出書房新社:世界の歴史19・インドと中近東,1990年2月初版」
「えーと,なになに(以下207ページからそのまま抜粋)
>ドースト・モハメッドはのちにアフガニスタン国王となる男であるが,当時は
>「グルゲク」(小狼)とあだ名されたほどで,バーラクザイ族の中でも乱暴者で
>知られていた。ハーレムに忍び込んだドースト・モハメッドは,眠っている
>一少女の腰についている宝石のガードルを切りとった。
わはは,確かに”戦争で勇名を馳せた”とかならともかく,これじゃ碑文に載せる
わけには行かないよなぁ。」

「ちょっと待ちなさいよ。その本が最初からあったのなら,こんなに長い話にする
必要は全然無かったはずよ。しかも「グルゲク」と「ゲルググ」ちょっと違うじゃ
ないの。」
「まぁー,それは,昔読んだ本で,今まで行方不明だったんだよ。うろ覚えでさぁ。」
「あなたは”女の下着を盗むような王子”のあだ名を頂戴して喜んでなさい。
HNも”虎の威を借る狐の皮を被ったグルゲク”にするのね。」
「いや,今となっては,いっそ”赤い狐”の方が通りやすいかも・・・」

ミデアでカーブルを脱出した”赤い狐”はアフリカを目指した。
「アフリカへ,宇宙に上がるのね。それから何処へいくの?」
「グラナダだな。連邦軍が進駐してくる前にたどり着ければ可能性はある。」
「ところで,コンテナに積み込んでいたのは何?」
「マ・クベ大佐の鉱山に残っていたソリウムのインゴットさ。第一次精製済みで
24トンはある。ジオンは,あと10日は戦える。」

「ところで,もう正体はバレたのにまだ続けるの?」
「終章(エピローグ)が残っているんでね。」


”赤い狐”終章
                             
キリマンジャロはHLVの打ち上げで混雑していた。かつての教え子のつてを
たより,なんとか潜り込む。残念だがMS−06Tは廃棄せざるを得なかった。
地球上空ではサラミス級巡洋艦に発見されるが,逆に出撃してきたGMを奪取
さらに艦までを奪って逃走する。(なお,サラミスの乗員はちゃんとHLVに
収容した。彼らが友軍に撃破されたか,或いは救助されたかは定かでない。)

グラナダへはギリギリで間に合った。
グラナダの鉱山には初期作戦で得られた大量の連邦軍捕虜がいた。南極条約に
より一部の捕虜は解放されたが,ほとんどの捕虜はその恩恵には与れなかった。
そして,過酷な労働の中で次々と倒れていったのである。
後の世に云う「グラナダ抑留」である。実際に帰還できたものは実に3割にも
満たなかったと云われ,その帰還者も帰るべき家や,家族を失っていた。
いや,サイド1,2,4,5の出身者に至っては帰る国すら無かったのだ。

「これなんか年齢・雰囲気が似てますね。出身はサイド1,階級は大尉ですが。」
「別に,給料が多少下がろうがかまわんよ。それにしてくれ。」
「では,8月5日の死亡記録を抹消,身分確認のDNAデータを書き替えます。
顔写真も入れ替えは終了。指紋と網膜パターンはどうします?」
「元のデータを破壊しておけば充分だろう。もう終わりかね。」
「手続上は完了です。あとは捕虜らしくヨレた服に着替えておいて下さい。」
「そうだな。では連邦軍の救出を待つとするか。」
そう言って男は”When Johnny Comes Marching Home”を口ずさみながら収容
所の奥に消えた。

連邦軍大尉としての”赤い狐”の新たな戦いが始まる。    ・・のかな?

"赤い狐"第一部(?)     〜Fin〜


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