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赤い狐(ソロモン王国編)第1話 投稿日 : 99年11月15日

新公国軍近衛第二艦隊の重巡4隻,機動巡2隻,軽巡14隻が,連邦軍根拠地である金平糖泊地に接近
しつつあった。これだけの規模の艦隊となると,さすがに隠密行動は不可能に近く,要塞の哨戒区最大
外縁部において発見され,既に連邦軍は迎撃態勢を整えつつあった。

航路啓開作業中のZK部隊には帰還命令が下され,看守のGMは迎撃任務につくために移動を開始した。
また,付近を航行中の船舶にも湾内へ避難するよう勧告が下され,資源サルベージ船2隻と難民輸送船
5隻が,この指示に従い,港に逃げ込んできた。

途中の監視哨を潰しながら進撃して来た,近衛第二艦隊旗艦『L・マリー』艦橋の司令官席。
彼女は今,最高に御機嫌だった。
「さぁ,派手にドンパチ,楽しもうじゃないか。」

「姐さん,張り切ってるけど,こっちが陽動だって判ってるよなぁ?」
誰かがポツリと呟く。

それを耳敏く聞きつけた彼女が言い放つ。
「何言ってんだい,囮だからこそ,派手にブチかますんだよ。」

「前方,GMの編隊が接近。機数およそ200機!!我が艦隊の接近を聞いてから出てきたにしては,
早すぎます。恐らく,航路啓開任務中のものでしょう。」
近衛第二艦隊が保有するMSは合計120機,軽武装のGMであり,味方の14F,09RIIの方が,
機体性能が格段に上である事を考えれば,一概に不利とは言えないが,要塞内に,まだ500機近くの
MSが配備されている事を考えれば,無理は出来なかった。

「ちょっと多いね。せっかく『先生』から貰った秘策だ。さっさと使ってしまおうかねぇ。」
「へい,準備はできてます。」
「よぉーし,目眩ましの巨大投光器用意ー,発射!!」

接近中の公国軍艦隊を迎撃に向かった連邦軍守備隊のGM機編隊。
その前方で巨大な光芒が輝いた。とっさに防眩フィルターを準備出来た者は間にあったが,敵の艦隊を
望遠で観察していたパイロットの一部は間に合わず,視力を失った。
しかし,最初に視力を失った30機は,幸いであったのかも知れない。
接近中もかまわず点滅しながら輝く光を見ていたパイロット達に異変が起きていた。
呼吸の乱れる者,激しい動悸に襲われる者,激しい嘔吐感を感じた者,体中から発汗した者,既に失神
した者も居た。100機以上のパイロットが異常をきたし,戦力から脱落した。

「残った敵機は40機程度。」
「思ってたより,効果があったようだねぇ。よーし,MS隊発進!!残敵を掃討したら,フリッカーを
くらって,のびてる奴にも止めを刺しとくんだよ。」

全力出撃した公国軍MS隊は,3倍以上の戦力差もあり,さしたる損害もなく連邦MS隊を壊滅させた。
しかし,彼女には不満のようだ。
「何で13機も見逃すんだよ。癪だねぇ!」
だが,その13機は真のエースに違いなく,下手に追撃すれば,返り討ちにあうのはシミュレーション
エースに過ぎない志願兵パイロットの方であるのは間違いなかった。

「ハヘブレから暗号入電,『湾内ニ入港,コレヨリ器材ノ搬入ヲ開始ス』との事です。」
無線手が報告する。
「ようし,じゃぁ連邦艦隊のお出ましを待ち受けようじゃないの。」

まだまだ,戦いは始まったばかりである。
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「予告通りに戦争が始まりました。ちなみに姐さんは,少将あつかいです。」
「でも,『名前はまだ無い』のよね。」
「良いじゃない,一発で判るセリフを用意したんだから。」
「違うキャラのセリフもあるけど。そういえば,機動巡にはあんな装置がついていたわよね。でも後で
出てきた時には普通のビーム砲になっていたんじゃ無かったの?」
「それについては,また後で解説します。そんなわけで,今回は『TVを見るときは,部屋を明るくし
て,少し離れて見ましょう。』というお話でした。」
「で,ハヘブレって何?」
「リーア船籍の資源サルベージ船。つまり,宇宙のスクラップ回収船の名前だよ。」
「あ,また何か悪巧みしてるな。」


赤い狐(ソロモン王国編)第2話 投稿日 : 99年11月20日

公国軍の本格的侵攻を知った金平糖要塞司令部は,混乱の極みにあった。
「監視哨からの報告では,20隻近い艦隊規模だそうです。予想されるMS戦力は100機以上。」
「なぜ,ここなんだ。敵は”シルム(傘)”を,取り戻す作戦を実行中では?」
「連中が”傘”を,狙っているてのは,恐らくガセでしょう。情報部のヘマで,ここの戦力を半数以上
”傘”に,持っていっている。その上,更にアレの護送任務に艦隊を派遣している。あっちを襲うって
情報も,やっぱりニセ情報か?」
「大体,一番騒ぎが起きそうだと,予想されていたのは,”傘”で,次がサイド3,その次がサイド6
と月という順番のはずで,いきなり,金平糖なんて話は,聞いてないぞ。」
「ひょっとすると,これも先月のエムデン号襲撃事件みたいな,奇襲・襲撃作戦かもな。」
「20隻もの艦隊で,ですか?」
「判らんぞ,さらに大規模な艦隊の移動の眼をごまかす陽動作戦かもしれん。それにここを攻めるには,
数が足りんし,これ見よがしに,接近してくる事からもその可能性は高い。」
「なるほど,では敵の本隊は何処へ?」
「それは判らん。情報部の判断どおり”傘”かもしれんし,余所かもしれん。だが,ここに来た敵を,
生きては返さん。第一波の迎撃部隊に続けて,準備が出来次第,MS迎撃部隊を出撃させろ。駐留艦隊
の発進準備はまだ整わんのか?」
「逃げ込んできた,難民船の収容で混乱しており,しばし時間がかかるとの事です。」
「厄介者だな。あぁそうだ,捕虜どもは直ちに部屋に拘束しておけ。」

要塞司令部に,最初の戦闘報告が届いた。
「第一波迎撃隊,壊滅しました。」
「壊滅?いくら軽装で出したからって,こっちは予想される敵の倍近い数のはずだぞ。」
「敵艦隊方向に,怪しい光を確認。ひょっとしてコレが原因か?」
「何だ?怪しい光とは?」
「索敵班が,光の正体を確認しようと最大望遠で見たところ『てんかん発作』によく似た症状を起こし
て倒れました。他にも,外を観測していた者が同様の症状を訴えています。」
「医者に聞いたところ,光の点滅に神経異常を起こさせる原因があるとの話で………。」
「判った。しかしレーダーは使えん。熱源探査も不充分だ。肉眼で光学観測するしかない。索敵班には,
変な光源は,なるべく見つめないようにとの指示を出しておけ。」

「要塞守備艦隊の出撃準備が整いました。直ちに,敵の側面に展開させます。」
「うむ,序盤戦は小細工にしてやられたが,今度はそうはいかん。要塞正面は要塞砲とMS部隊が守る。
艦隊は,敵を要塞火砲の射程圏内に追い込むのだ。」
「正攻法ですね。」
「当然だ。あちこちに部隊を小出しにしているとはいえ,ここは連邦軍最大の策源根拠地だぞ。たかが
20隻程度の艦隊など,ものの数では無い。」

確かに現在の要塞守備艦隊は,戦艦24隻,巡洋艦56隻,残ったMS500機以上である。迫りつつ
ある公国艦隊の4倍以上の戦力であり,しかも,強力な要塞火砲の支援を受ける事も出来た。

だが,この戦力を変化させる状況が動きつつあった。
連邦軍が艦隊の半数を出撃させ,残り半分が動き出しつつあった頃,公国軍近衛第二艦隊とは真反対の
方向から別の艦隊が迫りつつあった。
新公国軍主力の近衛第一艦隊,すなわち純白の14JGを駆る白い狼が率いる最強の部隊である。
旗艦グワラン艦首には,グレート・Dを思わせる公王家の紋章が徴されている。
そう,これは正しく,公王座乗艦であったのだ。
麾下の重巡12隻,機動巡6隻,軽巡28隻が従う。さらに後方に,民間船改造と思われる仮設空母が
16隻続いている。無論,それらにも護衛の軽巡が計8隻。戦力的には,公国軍と連邦軍の艦隊戦力は,
これで完全に拮抗した。

艦隊から1機の巨大な機動兵器(試8式重機動兵器『Z機』:通称ビッグ”Z”アーマー)が突出した。
その機体からM粒子のため通信困難な状態の宇宙に檄が飛ぶ。
「…ロ…ンよ,私は帰ってきた!!」
連邦軍将兵の中で,かつて此処で戦った経験のあるものは,そこに再び『恐怖』を見た。
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「ついに公王陛下の艦隊が出ました。シンちゃんは中将,試8式で怒鳴ってる悪夢は准将です。」
「階級がインフレを起こしてるんじゃないの?」
「50隻以上の艦隊を率いていて,大尉じゃ困るんだよ。第一グワラン艦長が大佐クラスのはずだし,
大丈夫,公王陛下から直々に階級を賜ったんだから,勅任の将官を名乗ってても変じゃない。」
(戦前の日本の軍隊では,少将以上の階級は,天皇から直々に任命される事になっていました。)
「また,変なミリタリーネタを出してると,読者に呆れられちゃうわよ。」


赤い狐(ソロモン王国編)第3話 投稿日 : 99年11月24日

試8式重機動兵器は当初3機が平行して建造されていた。といっても零号機は様々な新兵器を搭載する
ためのテストベッドとして使われただけであり,実戦機として建造されていたのは2機だけである。
その初号機は,クリスマスイブのあまりにも有名な戦いで,敵の旗艦以下多数を轟沈するという戦果を
あげたが,戦闘継続時間を終え,主機をクールダウンしている最中を連邦軍に倒されている。
もっとも,残骸を調査した連邦軍の報告書によれば,コクピット部からパイロットの遺体は発見できず,
この悪魔のような機体を操っていた主が,機体爆発時には既に脱出していた可能性も示唆している。
そして,2号機はグラナダ工廠で建造途中で休戦となり,工事が中断されたまま置かれていた。その後
連邦軍により調査されることになったが,事前の偽装工作で,関連資材ともどもスクラップとして処分
され,グルベンキアン卿の工場で完成したのであった。
だが,今回の主役はこの機体でも無ければ,それを今操っている,かつて悪夢と畏れられ,MS乗りの
教本に乗るような活躍をした人物でも無い。それは………

公国軍近衛第一艦隊の接近に先立つこと数分前,発信者不明の通信が要塞司令部に届いていた。
「なんだ?この電文は。」
それは,連邦軍で多用される平易な略式暗号であり,直ちに解読できた。
『本日の営業は終了いたしました。又のご来店をお待ちしております。』というふざけた内容であり,
通信のBGMに東洋風の音楽がかかるという妙なものであった。
「あ,この音楽は聞いた事があります。なんでも東洋の学校で卒業式に歌う曲ですね。」

だが,その冗談のような電文がもたらした効果には重大なものがあった。
機関区の主動力炉と補助動力炉の全てが,いきなり出力を低下し始めたのである。大型の反応炉だけに,
出力にはまだ余裕があったが,一旦停止してしまうと,再起動は難しい。補助動力炉ですら,初期始動
には,戦艦4隻分の電力が必要となるのである。主動力炉となれば,再起動にはその補助動力炉3基分
の電力が必要となる。これは,要塞誕生以来,一度も止まらずに,動いて来た物なのだ。

「どういう事だ?」
「恐らく,去年,敵が此処を放棄する際に,動力炉関連の制御回路にウイルスを仕込んだのでしょう。
大至急,制御を取り戻すべく作業中ですので………,えっ,なにぃ?!」
連邦軍参謀は驚きのあまり,手にした通話器を落とした。宙に浮いたスピーカーから先方の悲鳴に近い
叫びが聞こえる。
「大変です!湾内に避退してきたサルベージ船と,難民船から陸戦兵が上陸して来ました。港は完全に
敵に制圧されました。」
「我が軍の憲兵隊は何をしていたんだ?」
「敵はミジェットMSを持ち込んでいます!こちらもMSの支援を!」
「馬鹿な,要塞を破壊する訳にはいかん。上陸前ならともかく,陸戦が始まった後では手遅れだ。」
「こちら,第2宇宙港,防御シャッターの動力が不充分で閉鎖不能です。各所で電圧低下状態。何とか
して下さい。MSを廻せないなら,せめて電気を………。」

「どうやら,要塞の動力は低下しつつあるようだな。ラコック大佐の置きみやげが,まさかそのまま,
生き続けていたとは,思っていなかったが。」
サルベージ船『ハヘブレ』号の指揮官,ネタニヤフ中佐は,誰に言うともなく呟いた。
「こっちの港は完全に制圧しました。続いて,捕虜の救出とMSの再武装に取りかかります。」
「うむ,急がせろ。そろそろ,主力艦隊がおいでになるはずだ。礼砲を撃てるようにしなけりゃな。
なにしろ,要塞配備のビーム砲は撃力が不足して,発砲出来ないはずだ。」
港では,掃海作業に使用されていたZKに,ハヘブレ号で持ち込んだ武器を装備させ始めていた。中に
は,09RII用のはずのビームバズーカを装備している機体もある。

やがて,解放されてきた捕虜たちの一団が姿を現した。
「中佐殿,この日が来るのを一日千秋の思いで待ち望んでいました。機雷掃海なんぞの作業をさせられ
ておりましたので,いささかも技量は落ちてはおりません。是非,我々も戦列に加えて下さい。」
「もちろんだとも。再び,共に戦おう。ところで,あの新兵器については聞いておるな。」
「はい,潜入した連絡員に説明を受けております。なんと,1発撃つのに,私一人が一年間呼吸できる
量の酸素を消費するとか?」
「ビーム発射の起電力用に,3,000kwクラスの水素ガスタービンを積んでいる。E−CAP能力
では20発近く撃てるが,このジェネレーターを駆動するための酸素の制限で,せいぜい6発が限度,
実用上は4発と考えてくれ。」
「まさか,物を燃やすために酸素を使うなんてね。は?ひょっとして,このビームバズーカ,大気圏内
で使うなら………」
「君の想像の通りだよ。だがな,今は宇宙にいる敵を倒すのだ。」
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「やっと,ビームバズーカの謎がとけたのね。でも,そんな強力なエンジンをバズーカにつけて,取り
まわしとか不便じゃないのかしら?」
「短時間しか回さないエンジンなので,最低限の寸法・重さで良いはずだから,なんとかなるさ。参考
にした現用ティルトローターVTOL機のターボプロップエンジンが,全長2m以下,直径87cm,
出力4586kw,重量440kgだから,MSのサイズの武器に装備しても,不都合が生じるような
大きさじゃないんじゃないかな。」
「ちょっと待ってよ。MSの核融合炉の出力が1500kwで,どうこういってる設定じゃ無かったの?」
「こっちは,2トン弱の酸素を使い切ったら終わりで,しかもそれは数秒で燃え尽きるんだ。いや違う,
水素を燃やし尽くすんだ。MSのエンジンとは単純に比較は出来ないよ。」


久しぶりの科学解説講座

「ねぇ,水素ガスタービンエンジンの事を『物を燃やすために酸素を使う』って,捕虜の人が驚いてた
けど,UC世界では化学ロケット,つまり水素燃料ロケットが普及していたはずよね。変じゃない?」
「うーん,水素燃料ロケットは水素を酸素で燃やして噴射して,その反作用で推力を得る。間違いでは
無いんだけれど,これには大きな誤解,勘違いがあるんだ。」
「どういう事?」
「実際に推進のために噴射される物は何かな?」
「水素ガスが酸素と化合した物だから,H2O,つまり水ね。」
「その通り,噴射されているのは水蒸気だ。ところで,推進剤としての水蒸気の中に占めている,水素
原子の重さの比率はどうだろうか?」
「えーと,水素の原子番号は1だし,特に普通の水素原子は中性子を持っていないから,質量数も1ね,
これが2個で水の分子になっていて,これがくっついている酸素原子の原子番号は8で,質量数は16,
えっ,と言うことは………」
「そう,水素燃料ロケットとは言いながら,実際には推力のほとんど(16/18)は酸素原子の質量
でまかなわれているわけだ。水素原子はあくまで,酸素と化合して熱量を得るために必要なだけ,とも
言える。」
「なるほどね,推進剤として必要なのなら,宇宙に捨てるのも仕方ないけど,単なる化学エネルギーを
得るためだけに酸素を使い捨てるのは,宇宙の住民にとっては,トンでもなくもったいないバチあたり
な事なのね。酸素がふんだんに使える地球の環境に慣れていないと,こういった発想は生まれなかった
という訳ね。」
「そう,これは公国軍での航空兵器の開発にも影響を与えていたんじゃないかと考えている。つまり,
ジェットエンジンの開発をしようにも,コロニーの閉鎖空間の中では,エンジンの燃焼試験がきちんと
出来ない。特に耐久試験は無理だろう。なにしろ,もの凄い量の酸素を必要とするからね。」
「ふうん,そういう意味では,地上を制圧してからでないと,まともなエンジンの開発は出来なかった
わけね。最初に地上侵攻した部隊は苦労したわけだわ。」


赤い狐(ソロモン王国編)第4話 投稿日 : 99年11月28日

「さーて,さっきの『蛍の光』から何分経った?」
「約30分です。そろそろ,敵の電子工作技官が,制御回路のデータをいじりだしたでしょうか?」
ネタニヤフ中佐は,少し思案して決断した。
「よし,第2段階に進む。連邦軍を要塞からいぶり出してやろう。」

正体不明の電文が,再び要塞司令部に届いた。
「なんか,イヤな予感がするなぁ。また変な通信が入っています。」
『お客様のご愛顧にお答えするため,当店は24時間営業致しております。お時間の許す限り,どうぞ
ごゆっくりお楽しみください。』という内容である。
「さっきの電文とペアだな。今度は何が始まるんだ?」

「機関区から報告です。ウィルスの完全除去には失敗しましたが,動力の回復には成功しそうです。」
「よし,やったな。直ちに,各要塞砲塔に電力を復旧させろ。接近中の敵艦隊に,一撃をお見舞いして
やれ。」
しかし,それはぬか喜びに過ぎなかった。

「大変です。動力炉が暴走を始めています。我々が出力制御を取り戻したのでは無く,あの変な通信で
停止寸前の動力炉を逆に暴走させるようなプログラムが起動したのでしょう。」
「そんな推測はどうでも良い。止められるのか?」
「技師達が総出で取りかかっておりますから……ですが,出力の上昇率が思いの外速く,間に合わない
可能性も………」
「間に合わなかったら,どうなるのだ?」
「要塞内の全ての核融合炉が自爆します。」

「そうか,判った。制御の回復に全力を尽くしてくれ。それはどうせハッタリだ。ここが自爆して困る
のは,敵も同じ。奴らもなるべくなら,此処を無傷で手に入れたいだろうしな。」
そう言って,司令官は機関区との通信を切った。
「どうなさるお積もりです?」
参謀が尋ねる。
「脱出の準備を急がせろ。ただし,要塞守備隊員の士気に影響する。極秘裏に頼むぞ。」
「しかし,要塞の自爆は敵のブラフでは無いのですか?」
「何を言っている。奴らがコレを欲しがる最大の理由は,こいつの質量だ。地球に落とすのなら,中が
どんなに壊れてても問題は無い。連絡艦の発進準備を急がせろ。だが,自爆がブラフの可能性もある。
守備隊員には,徹底抗戦を伝えろ。幸い電力は復活したから士気は上がるだろうて。」

だが,電力の復旧は遅すぎた。開きっぱなしの扉を通って,要塞守備隊の機関銃弾をはじき返しながら,
ミジェットMSは要塞内部をかなり進んでいたのだ。それに,元々が彼らが建設した要塞であり,守備
隊の知らない抜け穴を迂回した部隊に背後から奇襲される部署もあり,抵抗は確実に減っていった。
もう既に,要塞砲の発令施設は制圧されており,異常に感付いて急遽帰ってきた連邦軍MSは,再武装
されたZK部隊と戦う前に要塞の対空砲火を浴びていた。そしてついに………

「中佐やりました。脱出を図った敵の司令官を第7港で捕らえたそうです。司令部要員も同時に捕虜に
しましたので,敵の司令部は今は空っぽのはずです。」
「でかした。よーし,直ちに司令部を制圧する。時限爆弾が仕掛けてある可能性もある。急げ!!」
数分後に金平糖要塞司令室は公国軍に制圧された。だが,ネタニヤフ中佐が心配した爆弾は無かった。
司令部が陥落したこと。そして,首脳部が既に脱出を図り,捕らわれている事を放送により知らされた
守備隊員は直ちに降伏し,抵抗を終えた。
ダビデの星に再び,公王家の旗が翻ったのである。
………………………………………………………………………………………………………………………………
「相変わらず,連邦軍の上層部は腐ってるのね。」
「その方がファンには受けがいいからね。理想的な首脳部を描いたら,連邦のファンでもおかしいって
思うよ。」
「それにしては,公国サイドの出来が良すぎる気がするけど。」
「こっちは,いわば『大規模な過激派』だからね。普通の,国対国の戦争じゃ無くって,国家対,国家
に支援されたテロ活動家の戦いになってる。公王を名乗ってはいるけど,国民は居ない。まさに旗印に
すぎない訳だ。」
「じゃあ,あの『大佐』は戦いには参加しないのね。」
「そういう小説は,誰もが書いてるから,今更,私が書くまでも無いんだよ。彼に期待しているのは,
政治家としてのカリスマだけ。それに,彼を戦場に出すと,連邦軍の方もエースを出さなきゃならなく
なるので,ちょっと困る。」


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