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赤い狐(ソロモン王国編)第5話 投稿日 : 99年12月1日

「連邦軍艦隊が,近衛第一艦隊に気付いたようです。」
金平糖要塞,いや,もう此処をその名前で呼ぶ者は居ない,ダビデの星の司令本部を掌握した新公国軍
のネタニヤフ中佐は,艦隊を無事迎え入れるために,準備を始めた。もちろん,核融合炉の暴走は停止
してある。
「要塞奪取の事実は,敵艦隊にはまだ気付かれておらんな。」
「はい,『上陸してきた我が兵を,現在排除中である。』という想定で,情報を送っています。」
「じゃあ,第一撃は奇襲になるな,各砲台に充分引きつけて撃つように指示しろ。ただし,敵艦の反撃
可能な距離には入れるなよ。」

要塞正面,すなわち地球方向から接近していた近衛第二艦隊。これを迎え撃つべく,出動していた駐留
艦隊は,要塞の背後から接近する近衛第一艦隊に対抗するため,要塞至近の位置を通過して,要塞裏側
へ廻ろうとしていた。
そこを,要塞の大出力ビーム砲が襲った。
威力はG級戦艦並み,いや,それ以上である。そして,その射撃の精密さも,恐るべきものであった。
要塞頂点6ヶ所の観測所をデータリンクさせて,各観測所からの光学情報を計算し,必要な射撃諸元を
砲台に与える。これはレーダーが使えない現実では,考えられる最強の測的技術である。しかも,観測
基地は,敵の攻撃から深い岩盤で守られ,かつ予備の観測基地も設けられている。通信ケーブルも岩盤
の深い場所を貫通しており,抗靱性も高く,さらに二重化,三重化されているため,外部からの攻撃で
射撃管制能力を削ぐことは不可能であった。しかも,戦艦搭載のビーム砲と異なり,発砲に伴う巨大な
廃熱を,厚い岩盤に蓄積させる事が可能であり,射撃継続能力も高かった。ある意味,小惑星要塞は,
艦隊を相手にする限り無敵の存在であったのだ。先の大戦ではこの砲の威力を畏れた連邦軍は,突撃艇
による決死隊を特攻させ(彼らの生還率は,実に40%でしか無かった。)このビーム砲を無力化する
事により,ようやく攻略を成功させたのである。

正確無比にして,強力な要塞主砲の先制攻撃,これにより,連邦軍艦隊のいきなり2/3が消失した。
そして,初めて要塞が敵の手に奪われていた事を知ったのである。
「戦艦”アリゾナ”轟沈!!」
フランク・ルーク中尉は自機・コマンドカスタムの機体を翻しながら,戦艦が光の中に消えていくのを
見ていた。それは自分が初めて配属され,主砲で敵のZKを撃ち落とした懐かしい思い出のある戦艦で
あった。もっとも,その直後の被弾のため,砲は破壊されて,敵機撃墜の記録は認められなかった。
にもかかわらず,自分の戦果を吹聴し続け『アリゾナのほら吹き』の異名を貰った彼は,艦艇の乗組員
から新しい兵種である,MSのパイロットを志願した。
最初は,丸い棺桶と蔑まれたアレしか無く,幾度も死にそうな目にあったが,GMに乗るようになって
からは,それなりの戦果をあげ,いつしかエースと呼ばれる資格を手にしていた。もっとも,いまだに
彼のあだ名は『アリゾナのほら吹き』であったのだが。
その名前の由来となった艦の最期を見ていた彼であったが,感慨にふける暇は無かった。
なにしろ,『悪夢が恐怖に乗って』やってきたのである。

試8式は14Aおよび09RIIを主力とするおよそ300機ばかりのMS部隊を率いて,30隻以下の
数になった連邦軍艦隊に飛び込んできた。これを迎え撃つのは,わずか120機,性能的に勝っていた
としても苦しいはずの戦いであるが,実は主力機は性能において劣っていた。そして,それ以前の問題
として,はるかに士気において劣っていた。公国軍パイロットの半数以上がシミュレーションしか経験
した事のない志願兵であるという事を差し引いても,この差は大きかった。公国軍のベテラン達は新米
パイロットをいたわりつつ,まるで戦技教練でもするかのように,敵を撃破し,敵との戦い方を教えて
いた。

旗艦グワラン以下の艦隊が,要塞に到着する前に,連邦軍残存艦隊は壊滅した。わずかに3隻の幸運な
巡洋艦が逃亡することに成功し,これに対し,100機以上の敵MSを葬ったMS部隊が被った損害は
非常に軽微であった。

なお,圧倒的な勝利に終わった,この公国軍の栄光に,ほんの少しだけケチをつける事件があった事も
記しておこう。
公王陛下を出迎えるために,陸兵が港に集まった。この時,連邦軍の捕虜に対する監視の目がわずかに
緩んだ。この隙を見逃すことなく,憲兵隊のウィリアム・テクメシュ中佐率いる連邦軍陸戦兵が脱走,
第7港で出港準備を終えたまま放置されていた連絡艦を奪取し,逃亡に成功したのである。
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「今回の主役は,悪夢でも恐怖でもないわね。」
「そう,ついでみたいに出てきた,連邦軍のエースパイロット,ルーク中尉でも,陸戦隊のテクメシュ
中佐でも無い。今回の主役は何と言っても………」
「要塞の主砲ね。」
「その通り,連邦軍の突撃艇のあれほどの犠牲が,何故必要だったかを考えた結果,戦艦は要塞主砲に
勝てない,という答えを導き出したんだ。その理由は,作中に書いた通りなんだけどね。」
「そう言えば,似た方法で長距離精密射撃をした連邦軍の士官がいたわね。彼は今どこにいるのかしら?」
「ニセ情報に騙された上層部の判断で,敵の来ない『ピルツ』に来て,くしゃみでもしてるかな?」


赤い狐(ソロモン王国編)第6話 投稿日 : 99年12月5日

直前の世論調査のとおり,選挙はドルゲ教授を首班とするZION自由党の圧勝に終わった。
連邦への不信感に凝り固まった市民達は,これを機に連邦軍が,武力侵攻してくるのでは?と予想し,
街には,先大戦終結以来の緊張が高まった。
しかし,開票作業が始まってすぐに,『残党軍が決起して,ダビデの星を襲撃した』との情報が流れて,
サイド3宙域に派遣されていた連邦軍艦隊は全て”傘”に集結したため,直接の脅威は去った。
もちろん,”傘”とサイド3は,指呼の距離にあり,軍事的な圧力の度合いがことさら下がった訳では,
無かったが,市民の間には「再び立ち上がった宇宙の英雄達を畏れ,要塞に引き篭もったのだ。」との
風評がたち,「連邦軍,畏れるに足りず。」の勇ましい意見が町をにぎわすようになる。
そして,何もかもが連邦に押さえつけられていた,この数ヶ月間の鬱積を晴らすかのように,反連邦の
動きが活発になっていた。
それは,連邦のいいなりであったダルシア政権が敗北した事。”建国の父”の息子が帰ってきて,政権
を担うようになりそうな事。それらが重複して,この新しい時代への期待感を大きくしていたのである。

ズム市の政庁(旧公王庁)に入ったドルゲ教授は,直ちに組閣を発表した。
当然のことながら,首相はドルゲ教授である。国防大臣,内務大臣,外務大臣等の主要な閣僚の名前が
公表され,国民の興味は,ただ一人,彼が,政権内でどのような役割を担うのか?に集中した。

そして,発表されたその職名に困惑し,その意味が判ると喝采を送った。
『共和国総帥』,そして『地球連邦改革連絡評議会サイド3代表委員』である。

共和国総帥とは,国家の危難に際して各閣僚の持つ権限を集約して挙国一致体制を取るための職務であ
り,公国時代のそれと変わるところは無い。ただ,公国時代の総帥が,公王の名代であり,その権限を
公王から託されるのに対して,共和国総帥は,議会と首相の承認を得てその権力を行使するという違い
があった。そして,『戦時にでもならなければその機会は無い』とも説明されていた。いわば,総帥職
は,単なる名誉職ともいえた。

それに対して,市民は絶賛し,連邦政府を激怒させた『地球連邦改革連絡評議会』とは何であろうか?
この評議会とは,先の大戦の起きた原因となった,連邦の制度的な問題点を解決するための改革案等を
提言するという組織であった。これはサイド3のみにこだわらず,リーア州や,月面都市からの参加も
呼びかけており,実はリーア州政府,月面34都市代表,再建しつつある各残存コロニー群代表らの,
参加協力も確定していた。しかし,今の連邦政府を無視して立ち上がったこの評議会に対して,連邦は
合法的に弾圧を行う手段を有していなかった。この評議会活動はあくまでも平和的な活動であり,先の
大戦で『独裁主義の公国に対する民主主義の勝利』を高らかに謳いあげた連邦政府が,この活動を弾圧
することは,それこそ民主主義の原則を否定する事に繋がったからである。結局,この活動に対して,
連邦政府は『提言を行う事は自由であるが,それを行うか否かは,連邦議会が決定することである。』
という当たり前の事由をコメントするに留まる。つまりは,残党軍の討伐が終わるまでは無視する事に
決めたのである。

さて,ダビデの星に戻り,艦から要塞に降り立った新公王は,その場で低頭し,先大戦において,要塞
を放棄した事を戦いに散った英霊達に詫び,将兵達の共感を呼んだ。そして,居住区を改装して作った
簡易宮殿に入城し,公国の復活を宣言した。8月15日,すなわち公国の紀元節に合わせて復活した,
この公国を,歴史的には69〜79年に存在した旧公国と区別するために,ソロモン公国と称するのが
通例である。
新公王は,公国復興宣言に続けて,先代公王の薨去原因を語り(この時,ピルツで発見された通信内容
が公表された)『連邦軍は父の仇であり,これを殲滅するために自分が地獄から這い上がって来たのだ』
と結び,連邦軍に対し宣戦を布告した。

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「今回は戦闘は無しね。一休みってとこかしら?」
「どうも,政治ネタに振ると上手くいかないなぁ。」
「でも,連邦軍に宣戦布告って,変じゃない?」
「良いんだよ。あくまでも,連邦軍という組織を殲滅することが目的で,連邦政府や,連邦そのものを
どうこうするわけでは無いと,宣言したわけだ。」
「じゃぁ,連邦政府が軍を解体するって言ったら,戦いは終わるのね。」
「もちろんそうだけど,そうなったら,新公国も連邦改革連絡評議会に加盟するわけだ。そして,提言
に反応しない連邦政府に対する懲罰行動をとるだけさ。」
「むう,まぁそんな事にはならないことは,分かり切ってるけど。」


赤い狐(ソロモン王国編)第7話 投稿日 : 99年12月13日

新公国復活宣言は,公式にはほとんど無視された。
活動の内容は,過激派に過ぎず,しかもその行動原理が『仇討ち』というのでは,政府としては正式に
コメントを出しづらいのものである。
もちろん,先代公王の薨去理由を知らされた市民たちの感情としては,同調するものも多く,特に先の
大戦で戦った者達は,あくまで個人的に,新公国に参加すべく行動を開始した。

さらに,連邦政府を無視し,連邦軍組織のみを敵の対象とするという宣言は,連邦軍の内部から多くの
脱落者を生み出した。特に宇宙市民出身者にとって,先の大戦は『地球連邦の制度を守るための戦い』
では無く,あくまで『同胞の命を奪った憎むべき公王家との戦い』であったに過ぎない。コロニー市民
殺戮劇の脚本を書いたのが,実は公王家では無かったのかもしれない,というプロパガンダに惑わされ
多くの兵士達がサボタージュを始め,月面基地やリーア州駐屯基地では脱走騒ぎすら起きるようになる。

また,ランク政権は中立を装いながら『連邦軍が駐留する事自体が,公国軍の攻撃を誘うことになる。』
という理由で,連邦軍に対して領域外への退去を要求し,月面都市その他もこれに追随した。
もちろん,水面下では新公国軍と経済活動を行い,彼らに支援を行っていることは,明白ではあったが,
連邦軍はとりあえず,残党軍の掃討を先決課題としたのであった。
そして,月,傘,ルナ2に分散配置されていた連邦軍艦隊は,L5のダビデの星を再び攻略するために
それぞれの基地を出撃した。

機動巡洋艦『カリマンタン』は,4隻の軽巡洋艦を率いて,傘を発進した連邦軍艦隊を偵察していた。
「敵の艦隊の規模は相当なものよ。ちょっと手出しをするのは,難しいんじゃないかしら。」
レイラ艦長は攻撃には消極的であった。しかし,黒狐隊を率いるアドラー少尉の考えは違っていた。
「いえ,確かに大艦隊ですが,それこそがこっちのつけめになります。それに,新たに戦列に加わった
パイロットにも,戦場に慣れてもらう必要がありますから。」
「ちょっと前までは,シュライヒ大尉の後をついて歩いてた雛っ子だったのに,いつの間にか,一人前
に生意気なクチをきくようになったものね。」
「はい,校長先生の仕込みが良かったですから。」
「ウチの人を褒めても,何もでないわよ。」
笑いながら,レイラ艦長は黒狐隊30機の出撃を認めた。対する連邦軍の宇宙艦隊は艦艇総数60隻,
所属MS部隊300機以上。戦力差は圧倒的なはずである。

「しかし,10倍の敵と,どうやって戦うんだい?」
訓練生以来のアドラー少尉の悪友であり,今や黒狐隊の副官格のシュミット少尉が尋ねた。
「今回の俺達の任務は,敵の殲滅じゃない,偵察だ。もちろん,艦長の言われる通り,遠くから付かず
離れずで観測しても良いが,出来れば敵艦隊の中央を突破して,敵の反応,士気や練度を確認したい。
これは判るな。」
「当然だ。せっかく最新鋭の14JGを貰ったんだ。だが,偵察にしても,艦隊中央に接近するまでに
見つかったらお終いだ。お前と心中する気は俺にはないからな。」
「そこでだ,格納庫の隅に転がっているアレを使う訳だ。」
「なるほどな,粒子密度の極度に濃い宙域で仕掛ければ,いける。よし,やろう。」

2機の14JGに率いられた黒狐隊の14B,30機が連邦艦隊の中心部を急襲した。
「艦隊正面に敵影!MSです。どこから湧いて出たんだ?」
「索敵班,何をしていた!!」
「いえ,少なくとも先刻までは何も見えませんでした。ビデオモニターの映像記録を御覧に………」
「何を馬鹿な事を言っている。直ちに迎撃をせんか!」

各艦の判断で勝手に迎撃を始めた者もいたが,それはわずかであり,あっけにとられているうち,艦隊
中央部の戦艦3隻,巡洋艦5隻がたちまち沈んだ。旗艦が助かったのは奇跡に近かった。というより,
直後を航行していた木馬型戦艦に攻撃が集中したため,被弾を免れたといっても良かった。その代わり,
連邦軍の期待を担っていたFAシリーズと呼ばれる重武装MSの活躍の機会は永久に失われた。
虚をつかれた艦隊が,迎撃を命じ,MS隊が動いた時には,敵奇襲部隊は突撃速度もそのままに艦隊を
突き抜け,既に姿を消していた。

宇宙で最大の熱源である太陽を背景にして,MS大の鏡を敵に対して斜めに構えて突撃する。宇宙空間
では,抵抗が無いため機動性に影響はほとんど無く,光学的には観測不可能である。もちろん,誰かが
そこに天体望遠鏡を向けていれば,そこには無いはずの星が見えたり,見えるはずの星が見えなかった
りしていたかもしれない。だが,戦場の索敵班が戦艦やMSらしいものや,その発する光を探している
限り,発見される可能性はほとんど無かったのである。
なお,この作戦に用いられた鏡が,サイド1の残骸付近で回収された連邦軍の秘密兵器のなれの果てで
あった事は皮肉以外の何ものでもない。
このアイディアは,黒狐隊独自の考えではあったが,校長先生の薫陶を受けた生徒には常識問題であり,
月から進攻中の連邦艦隊を待ち伏せた黒騎士隊も,ルナ2要塞から出撃した艦隊を待ち伏せた白虎隊も
同じ作戦を敢行し,連邦軍を翻弄したのだった。

この威力偵察のために,集結中の連邦軍艦隊はさんざんな目にあったが,なんとかラグランジュ第5点
軌道に到着し,要塞を包囲しはじめた。
その艦数は実に戦艦68隻,巡洋艦214隻,MS2000機以上であり,要塞に入城した公国軍艦隊
の実に4倍近い勢力であった。
さらに20隻の輸送艦により運ばれてきた,あの兵器もあった。ルナ2から届けられたそれは,昨年に
使用された時の物よりも素早い展開と,より遠距離の目標への照射が可能な物に進化していた。
そして,要塞攻略の切り札ともいえるシステムの展開が,今始まった。

危うし,ソロモン公国!
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「鏡をかざして,敵に切り込むなんてペルセウスみたいね。でも,これで索敵を逃れられるのかしら?」
「監視しているのが人間だから,発見は難しいだろうね。コンピュータに星図を記録して,『これ以外
の物を見つけろ』という指示で捜索させたら発見するかもしれないけどね。」
「にしても,あいかわらず,やってることは廃物利用ね。」
「使える物は何でも使う。リサイクル,リサイクル。」
「アイディアは良かったと思うけど,潰した敵の数ってそれほどじゃないわよね。結局かなりの戦力差
で,要塞攻防の決戦に臨まなきゃならないわけでしょ。しかも,アレを使われるとなると,要塞主砲の
メリットも無くなるし………。」
「その点は,ちゃんと考えてあるし,伏線もはってあるんだよ,ふふふ。」


赤い狐(ソロモン王国編)第8話 投稿日 : 99年12月19日

月軌道のさらに外側の軌道上に,8隻からなる輸送船団が待機していた。
「要塞司令部から,長距離レーザー通信を受信。」
「連邦軍システム艦隊の座標だな………なんだ?連邦軍も芸が無いな。」
「船長,何処ですか?」
「想定位置はA−1,つまり此処だ。移動の必要は無し,予定通りに,座標軸1Aにゾンネンシルムを
投射する。各船に連絡しろ,『グロース・シルム』作戦開始!」

旗艦の指示に基づき,各船はおびただしい数のダミーバルーンを放出した。
重さ200kg弱の,このダミーバルーンは,黒色の樹脂で出来ており,内部にはわずかなガスが封入
されている。最初はガスの圧力で拡がり,さらに太陽光線で熱せられ,さらに膨張した。
直径300mを越えると,封入されたガスの漏出が始まって,それ以上は膨らまなくなるのだが,この
ダミーバルーンはそれだけの大きさに膨れて,なお太陽光を遮るだけの密度を有していた。
8隻の輸送船に搭載されていた数は全部で4万個であり,毎秒6個づつの放出に必要な時間はわずかに
14分足らずであった。そして,それぞれのダミーバルーンはいくつかの群にワイヤーで繋がれており,
膨らんだ後は太陽光線というか,太陽風に煽られて一定の形を作り,宇宙に漂い始めた。
宇宙空間に面積2800平方キロメートルの巨大な日傘が誕生したのである。

「そろそろ,システムのミラー展開が完了します。」
連邦軍のシステム艦隊司令スタルク中将は,眼前に広がる広大な鏡を見下ろしながら報告を聞いていた。
「展開後の光軸調整にどの程度の時間がかかるか?」
「はっ,計算上は12分ですが,まだ試験をしておりませんので………,ですが,15分を越える事は
まず無かろうかと。」
「当たり前だ。去年の初号機よりも遅くてたまるか。狙う所も去年と同じだ,急がせろよ!儂の沽券に
かかわるからな。」
しかし,その光が要塞を照らし出す事は無かった。
「どうした?何故,日陰になるんだ?」
「食です。原因は不明。いや,太陽の方向に何かあるぞ!!」

グロース・シルム作戦艦隊が展開した,ゾンネンシルムの作った影が,連邦のシステムミラーの大部分
を覆い隠していたのである。そして,いきなりの闇に包まれた艦隊を狙う影があった。漆黒の宇宙空間
に閃光が煌めく。

「システム・コントロール8番艦が爆沈,あっ,4番艦もやられた!」
「なんて事だ,儂の経歴が………」

連邦のシステムには重大な欠陥があった。それは必然的に太陽光線の照らす位置でしか使用ができない
ため,必ず敵に発見される事。そして,展開のために時間がかかる事であった。要塞の公国軍はこの隙
を衝いた。ミラーの展開が始まるや否や,その位置を巨大な日傘で覆い隠して,その能力を減殺して,
コントロール艦を破壊する作戦に出たのである。コントロール艦は輸送艦の20隻であり,損傷を受け
ても,どれか1隻が生き残ってさえいれば,システムを制御できるよう改良されていたが,その事が実
は仇となるのである。

5式高機動兵器の一群を率いていた森岡寛大尉(仮)は,コントロール艦らしき輸送艦を概ね片づけ,
次の目的である護衛艦艇の処分に取りかかった。本来,対艦兵器である5式はMSとの接近戦は苦手で
ある。しかし,艦隊に対しての一撃離脱戦法に徹する限り,連邦艦隊,護衛MSともに,手も足も出せ
なかった。めぼしい艦艇はほとんど沈められ,コントロール艦を失ったシステムには,もはや護衛する
価値も無くなったと思われたため,取り残されたMS部隊は味方の艦隊へと逃れ去った。
………………………………………………………………………………………………………………………………
「まず,最初に説明しておこう『ゾンネンシルム』とは,つまり日傘の事だ。」
「それにしても,システムを覆い隠すような巨大なダミーバルーンを本当に作れるのかしら?」
「まず,システムの大きさだが,20mX10mの鏡を400万枚というのが,信頼できる最も大きい
サイズだ。」
「計算すると,800平方kmね。確かに全部覆い尽くせるかもしれないわね。で,『森岡寛』って,
誰なの?」
「大日本帝国海軍の零戦パイロットの一人だよ。負傷して左手を切断し,義手で戦場へ復帰したという
エピソードがある人物だよ。」
「なるほど,隻腕のエースの事ね。」


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