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シャアの最後(?)「虎ノイ暴走モード」

かつてのライバルの前で虚勢をはってはみたものの,男は死を覚悟していた。
脱出ポッドの外部の温度はじりじりと上がり始めている。
その時,不思議な光が落下する小惑星の周りを包みこむ。
「何だ,この光は?」
光はポッドの中にも侵入してきた。
「暖かい。」
男がそう感じたとき,開くはずのないポッドの扉が外側からあいた。
「なにっ!!誰だ?」
「なんとか間に合ったのね。私が何者かをあなたに説明している暇はないの。
教えてもあなたは私と逢った事を忘れてしまうから。いえ,正確には逢わな
かったことになるの。」
「どういう意味だ。」
「説明している暇は無いわ。あなたの記憶を探らせてね。うふふ,あなたも
この時代の人類としては,かなり覚醒しているのね。」
男は眼前の少女の意識が自分の意識の中に入り込もうとするのを必死で耐えよ
うとした。しかし,それは無駄なあがきであった。二人の意識が交わる。

そして,男は少女が何のためにここに現れたのかを瞬時に理解した。

「エヴェレット,判ったわ。犯人が接触したのはジンバ・ラルの部下よ。」
「こっちも判ったぞ。ジャミトフの家の使用人らしい。」
「これで,歴史改変犯罪者の大がかりな組織を壊滅出来るのね。」
「ああ,だが,これほどねじ曲がったこの世界の時間軸の修正は不可能だ。」
「私たちの能力で,出来るだけのことはしてみるつもりよ。虚しい努力,でも
心を通じさせたあの人を助けたいの。」
「良かろう。君のご先祖様だしな。」

航時機の動力源から未知のパワーがあふれ出し,小惑星の軌道を押し上げる。
「さようなら,ひいおじいちゃま。」


「お兄様,どうなさったの?ぼんやりされて。」
「いや,変な夢をみていたような気がしてね,よりによってガルマ君を私が
この手で殺めてしまうんだ。」
「お兄様ったら,私がお嫁にいくのがそんなに嫌なの?」
「いや,そうじゃなくて。デギンおじさんが父上と争っていて,それで地球
連邦と戦争になって・・・」
「変なお兄様。いけなーい,キシリア様のお茶会があるのを忘れてたわ。」
そう云い立ち去る妹を見送った男は,背後に小柄な,しかし精悍な男が立って
いるのに気付いた。
「ラルか,どうした?」
「は,連邦政府から特使が参りました。お父上,いえ失礼。教王陛下は殿下も
同席せよと仰せになりまして。」
「判った。30分でいく。」

巨大人型兵器モビルスーツを操り,戦場で恐るべきライバルと戦う。そんな
夢のような時間は終わった。連邦政府との交渉と言う退屈で根気のいる仕事に
戻るのだ。
「赤い彗星:シャア・アズナブル」そんな名前の人物は歴史上存在しない。


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