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赤い狐(謀略編)第1夜 投稿日 : 99年7月18日

モニターに映し出された映像は非常に荒れていた。
だが,それを見ていたのは,いずれも悪い状態での通話を余儀なくされた経験者達ばかりで,その事を
気にする者は無かった。画面には公国軍中佐の姿が映し出されている。戦艦の通信室のようであったが,
戦闘による被害は激しく,辺りには煙が充満し,モニターの画像が荒いのは通信状態の不良のみで無く,
設備自体が被った損傷のためでもあろうと察せられた。

状態の悪い画像ながら,その中佐が負傷しており,しかもかなりの重傷らしいことが読みとれた。
男の額から一筋の血が流れる。しかし,彼はそんな事は気にも留めずに,マイクを掴み,通話を始めた。
『ジ……こちら,公国軍近衛艦隊「グレート・D」……要塞守備隊並びに本国防衛隊に………ジジッ
……公王陛下,…謀殺さる!ジジッ……連邦の停戦……協議の申し出は欺瞞……,送迎艇にて移動中…
…砲撃を受け………ジジジ………護衛艦隊も全滅,旗艦健在なりとも……ジジ………我ら生還は…難し,
迷うことなく…ジジ…ステムで,陛下の…陛下の仇を……ッ』
通信設備が壊れたのであろう,唐突に映像記録・音声記録共に途絶えた。

「いやはや,まいったな。これは誰が創ったの?」
連邦軍士官(階級章は大尉)の制服を着た男が尋ねた。
「えっ?先生が創られたのでは無いのですか?」
黒ずくめの私服姿があまり様にならないシュライヒ大尉が驚く。
「それなら,君らに見せて感想を尋ねたりはしないよ。さっさと『茨の園』に届けて,元親衛隊長に
見せてるよ。『総帥閣下にかけられた父殺しの汚名を晴らすための戦いを共闘しましょう』とね。」
「では,これは本物?連邦軍が公王陛下を謀殺したなどという事ならば,あんな休戦協定は,反故に
すべきです。陛下の仇を討つために…,報道すれば,世論は再戦に傾くはず!!先生,いけますよ。」
「事はそう,簡単では無いんだよ。フェードラー君,説明してくれ。
それに,私はもう先生では無いよ。」

「我々にとって,大尉殿は永遠に先生なんですよ。」
私服姿がまるで”売れない絵描き”といった扮装のフェードラー大尉がそう答えて,説明を始めた。
「これは連邦が占領した”ピルツ”の通信室に,奇跡的に残っていた通信ログの中から発見した物です。
暗号の強度が強すぎて,連邦軍では読めず,内容不明のまま,データバンクに保管されてたのを,私の
部下がハッキングしたわけです。」
「連邦軍にも読めなかった?そんな代物を解読出来たのか?」
シュライヒ大尉が怪訝そうな顔をする。
「単純な話ですよ。これは『公王庁専用暗号』だったんです。連邦宇宙軍に傍受されるような所で発信
された事はまず無かったでしょうね。」
フェードラー大尉が種明かしをする。続けて,いくつかの説明をし,通信暗号情報の信憑性を確認した。
すなわち,この通信は公王家に極めて近い立場の人間以外には,偽造発信する事が不可能だったのだ。
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「ついに,戦後の世界に突入ね。でも,ここは何処で,何時なの?」
「実は,特に場所や日時を特定していないんだ。一応,終戦協定調印からあまり日時が立っていない
日程であることだけは確かなんだけどね。」
「まぁ良いわ。いきなりの謀略ね。それとも,このIF世界では連邦軍が謀略で公王を暗殺した事に
なってるわけ?」
「そこまで,史実を捏造はしないよ。ただし,これからの戦いの結果如何によっては,この通信文が
現実にあった事として,歴史書に記される事になるかもね。」


赤い狐(謀略編)第2夜投稿日 : 1999年7月20日

男が全員に説明する。
「『グレート・D』の通信機には,『公王庁専用暗号』を受発信する機能があった。そして,通信文は
”ピルツ”から発掘された。状況から見て,これは紛れもなく本物だ。そして一度公開されれば,これ
を連邦は『偽物』だと証明することは出来ない。しかし,何か胡散臭さを感じるわけだ。まるで,総帥
閣下があらかじめ準備していたみたいにな。」
「先生,いや失礼,大尉殿は近くを捜せば『突撃機動軍親衛隊から発せられた公女殿下の戦死報告』が
あるんじゃないかと心配しているんだ。」
「なるほど,総帥閣下の自作自演台本の小道具というわけか?”ピルツ”で勝利を納めておられたなら,
使うつもりだったのでしょうか?」
シュライヒ大尉は,そう言って,ふと口に出す。
「で,大尉殿は,コレをどう使うつもりなんです?」

「これを見て『信じる人物』に見せるさ。戦争を始めるには大義名分がいる。『リーゼ』閣下にとって,
『父親の仇討ち』は,兵を挙げるには充分な理由と思われるだろう。後は時機を見て世界中に報道する。
その時には士気を高める効果が生じるはずだし,敵の士気は下がるだろうね。」
男の言葉をフェードラー大尉が継ぐ。
「つまり,公表するタイミングが肝心だ。情報の管理はきちんとしてくれよ。」

「で,元親衛隊長には,コレを教えるんですか?」
今まで黙っていた,公国には珍しい日系のイヌマ中尉が尋ねる。
「君らは,彼にあまり信用が無いからなぁ。例の302中隊の堅物隊長は”ピルツ”戦で,共に退却戦
をやったらしいから,連絡を取らせてみようか?」
「えぇーっ,駄目ですよ。」
「何故だ?」
「この間,様子を見に行ったら,なんと!ルナリアンの娘とラブラブ状態でしたよ。軍に復帰する気は
無いみたいな事を彼女に言ってましたし。」

「甘いな!東洋の武士道物語『47人のサムライ』によると,主君の仇を討つために,家臣の代表格の
サムライは,『敵の目を欺くために,遊郭に通いつめての放蕩三昧』という生活を送っていたそうだ。
君らも身辺に連邦のスパイがいるかもしれん。くれぐれも用心には用心を怠らぬように!」
男が,そう力説すると,笑いながらシュライヒ大尉が答える。
「それで,大尉殿もお盛んな訳ですね。いやぁ,レイラ少佐が居ないから浮気をしてるんだと,勘違い
してましたよ。たいっへん失礼しておりました。」

先生が先生なら生徒も大した悪ガキである。
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「うーむ,誤解をする人がいるかも知れないので書いておこう。イヌマ中尉は漢字で書くと『飯沼』に
なります。単に訛っていると思って下さい。間違っても『犬間』とか『居ぬ間』とかではないので。」
「誰も,そんな馬鹿な名字を考えないわよ。普通は『井沼』だと思うわ。でも,どうして訛っちゃうと
『イイヌマ』が『イヌマ』になるの?」
「違うよ。『イーヌマ』が『イヌマ』に訛ったんだ。長音を省くのは最近の流行らしいからね。」
「そういえば,イヌマ中尉って,白虎隊の生き残りだったのよね?」
「今,明かされる真実!白虎隊とは実は公国には珍しいとされている,日系人によって組織された部隊
だったのだ。」
「そんなの,『隊長が日向(ヒュウガ)大尉』って,段階でバレてるわよ。」


赤い狐(謀略編)第3夜投稿日 : 1999年7月23日

その部屋は病室のようであった。しかし,その荘厳な装飾はまるで王宮のようにも見えた。
一人の巨漢がベッドに横になり,いや,背中に傷でもあるのだろうか?上半身を起こしている。
そして,二人の看護婦がガーゼの交換や点滴の準備等をしていた。

ドアが静かにノックされた。
点滴瓶を交換していた看護婦が緊張した顔を上げ,腰の拳銃に手をかける。
彼女たちは超一流のSPでもあったのだ。
「どちら様でしょう?」
扉の真正面で誰何する。
もし,問答無用で攻撃された場合は,ベッドの患者に対して盾になる位置である。
無論,看護婦の制服の下には第一級の抗弾装備をしていたが,ミリタリーライフルを至近距離から
撃ち込まれれば,耐えきれるものでは無い。
しかし,患者を守って死ぬ事は彼女達に取っては,本望であった。
彼女達は『患者が誰であるか』を薄々感づいてはいたが,それを正確には知らされてはいなかった。
それでも,彼女達は忠誠を誓った婦人のために,喜んでこの任についていたのである。

「『狐』が参りました,と陛下にお伝え下さい。」
看護婦達は安堵して,扉を開いた。
扉の外には目つきの険しい,一見して退役軍人と思われる男が二人,そして現役の軍服姿の男が
一人いた。退役軍人風の男は二人とも右腕を負傷したのかギブス固定をしている。だが,その様子は
負傷兵のそれでは無い。ギブスの中には機関短銃でも仕込んでいるに違いなかった。
そして,二人を残し連邦軍大尉の制服をまとった男が入ってきた。
男は看護婦達に視線を向ける。それは,いつもの楽しげな視線では無く,無言で退去を促す冷徹な
ものであった。
「何か有りましたら,お呼び下さい。」
そう言って,二人の看護婦は退出する。

男はベッドのそばに跪いた。
「陛下。御機嫌麗しゅう……」
「能書きは止せ。それから,俺を陛下と呼ぶのもな!!」
巨漢の発した声は,かつての怒声を知る者にはひどく変わってしまったように感じられた。だが,
気道熱傷の影響はそれほど酷いものでは無く,彼独特の覇気のあるしゃべり方には変化は無かった。
「今日は何の用だ?誰をどうする話だ?」
「陛下の御勘気をこうむった者の事についてで御座います。」
「俺の勘気を?誰の事だ?」
「お忘れになりましたか?弟君をお守り出来なかった件により放逐された,かつてのエースを?」
「ああ,忘れるわけが無かろう。だがな狐よ,きゃつがおらぬと公国の復興も儘ならぬのか?」
「さように考えます。あの者はある意味,陛下と並び立つ資格を持つ者に御座いますれば。」
「その話,詳しく聞こう。」
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「あれ?『赤い狐』が『陛下』って呼んでるのは誰なの?」
「公王陛下が連邦軍に謀殺されちゃって,しかも長男・長女が枕を並べて討ち死にしちゃった訳
だから,王位継承者は次男だか,三男だかになるんだよ。しかもどっちかは10年も前に死んで
いるはずだから,残りは一人しか居ないはずだろ。もっとも,戴冠式とかの儀礼はまだだけどね。」
「そういう事を聞いてる訳じゃ無いんだけど。まぁ良いわ,自分で自分を閣下だと思っていて,
赤い狐も,そのように扱っているって事は,本物なんでしょう?」
「さぁ,どうかなぁ?何しろ『赤い狐』の座右の銘は『敵を欺くには,まず味方から』だからね。」
「IF戦記になってからは,『敵を欺く前に,まず読者から』でしょ!」


赤い狐(謀略編)第4夜 投稿日 : 1999年7月24日

アドラー曹長以下,黒狐隊の一同は,かつてハッテ州と呼ばれていたコロニー群で作業中であった。
作業自体は至って簡単なものであったが,内容については彼らもよく判らずに行っており,作戦を
考えた,『校長先生』と作戦の細かい詰めをしたフェードラー大尉だけが,その内容の意味を理解
していたと言える。
いや,彼らの活動を支援していた母艦である『カリマンタン』の女艦長,レイラ少佐も作戦の内容
を理解していたのかも知れない。もちろん彼女が作戦の意味を不用意に漏らすような事は無く、黒
狐隊の面々は,訳もわからず,指示された作業を進めていた。

作業とは,住民が全滅したコロニーのうち,比較的原型を留めている物(すなわち,核弾頭兵器に
よって破壊された物では無く,いわゆるBC兵器によって住民が殺戮された物)のいくつかに大型
のボンベを搬入するというものであった。
しかし,そのボンベの中身はカラであり,何のガスも入っていなかった。もっとも有害なガスが,
たとえ入っていたとしても,そのコロニーの住民はほぼ1年前に死に絶えており,なんらかの影響
も与えるはずも無かったのだが?

「こいつに,連邦軍のマークを書いておいて、開戦劈頭のコロニー住民虐殺の責任を連邦軍に押し
つけるって訳でも無いよなぁ?」

彼らが設置していたボンベには,彼らが今まで一度も見たことが無いような記号が記されていた。
また,一部のボンベにはそのマークを消した上に,公国軍の紋章を書き込んでいる物もある。
もしも,彼らの中に誰か,中世紀の歴史に精通している者がいたなら,気づいたであろう。
その記号こそ,世界を畏怖させたある独裁国家の旗印であった事を。
だが,誰も地球史を詳しく知る者はおらず,その事に気づく者もいなかった。

しかし,その意味するところは判らなくとも,命じられた作業は作業である。
彼らはこの仕事を抜かりなくやり終えた。
世界最強の量産型MSである14Aを駆る彼ら黒狐隊には,まったく役不足の仕事であったろう。

そして,この単純な作業を終えた黒狐隊には別の仕事が待っていた。
「今度は壊れた方のコロニーを動かすんだとよ。」
「何でも,『なるべくバラバラになっていて,それでいてあまり損害がない物』って、一体どんな
コロニーだよ?」
「まぁ,フェードラー大尉が指示するコロニーを動かせば良いんだろうけど?」

『カリマンタン』で,指定された宙域に移動した彼らの目の前には一つのコロニーの残骸があった。
そして,彼らは納得した。
「確かに,バラバラだけど,あんまり損害は受けてはいないよなぁ。」
……………………………………………………………………………………………………………………………
「『世界を畏怖させた独裁国家』って,どこの国かしら?」
「それは名言しづらいなぁ。でも,『宇宙世紀』での『中世紀』だから,20世紀の感覚では近代
というか,ほとんど現代史だよ。おのずと回答は見えてくるはず。」
「それよりも,この黒狐隊がやっている作業が,『アキロニア戦記第13話』で言っていた,準備
に何ヶ月もかかる作戦な訳よね。」
「その通り,結局完了したのは8月も半ばになってしまうんだ。」
「やっぱり,壊れたコロニーの残骸を廃品利用するのね。」


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