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赤い狐(謀略編)第5夜投稿日 : 1999年7月28日

L5点の暗礁宙域を,3隻の巡洋艦が輸送船団を護衛し金平糖泊地へ向かい航行していた。
かつて公国軍の聖域であったこの宙域も,今では連邦軍の往来を許す場所へと変化していたが,
まだ航路啓開・機雷掃海といった業務は緒についたばかりで,危険は多く護衛艦と12機のMS
には緊張感があった。
勿論,公国軍残党が逃げ込んだL1点の暗礁宙域に比べれば,よほど安全ではあったのだが。

「左舷10時にZK!!」
見張り員の声が上がり,艦橋の緊張感が一挙に増大する。しかし,
「よく見ろ!我が軍の捕獲機だ。どうやら掃海作業中のようだな。」
艦長は右肩のシールドに描かれた連邦軍章を確認して緊張を和らげる。

そう,この宙域で危険な掃海作業の任についていたのは,連邦に虜獲された公国軍の機体であり,
搭乗していたのも,元公国軍パイロットの捕虜であった。
当初,連邦軍はGMにより掃海作業を行っていた。しかし,テスト機から戦闘データのみを運動
パターンとして導入されていたGM機は,複雑な作業を行うには,不器用過ぎた。
戦闘で得られた機動データと,一般的な作業に必要なデータには,違いがありすぎたのである。
その事実が判明するまでの間に,貴重なパイロットの命と,数十機の機体が失われていた。
そして,その事は要塞に拘留されていた公国軍MSパイロット達の失笑を買う結果となっていた。
南米本部からの『一刻も早い航路啓開を!』という命令に,要塞司令官は『危険な機雷掃海作業を,
公国軍の捕虜にさせる』という魅力的な案に結びつけた。
『我々の作業を笑うなら自分たちでやって見せろ』という訳だ。
だが,公国軍パイロット達は,自分たちのプライドからこれを引き受けた。いや,彼らは単純に,
『MSに乗りたかった』のかもしれない。
とにかく,話はまとまり,450機ものZKがかき集められた。パイロットの方が足りない。
その中で程度の良い機体が選ばれ,デチューンされた。最初は搭乗パイロット達の反乱を恐れ,
600kwにまでスペックダウンされたが,運用テストで『満足にAMBACも出来ない』と判明
したため,元に戻された。当然,武装されていない。
そこで,機関砲で爆破した方が安全な機雷(MSはおろか,ノーマルスーツ着用の兵士が接近した
だけで爆発するシロモノもあった。)を,破壊する目的で,連邦のGMが随伴していた。
彼らが看守の任務を帯びていたのはもちろんであった。

だが,その宙域にいたZKは,実は連邦虜獲機だけでは無かった。緊張の解かれた観測員も護衛の
GMパイロットも,天頂方向で機動するMSの群を,それだと信じ油断していた。そして,

「高熱源体接近!!ミサイル!!」
オペレーターは叫ぶ。しかし,旗艦を狙ったZKこそバズーカを使用したものの,他の艦を狙った
MSの携行武器はビーム兵器であった。輸送艦6隻は一瞬で轟沈,さらに8機のGMが墜ちた。
作業中のZKを監督(監視)していたGMが駆けつけた時,艦隊は既に全滅していた。
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「あら,謀略戦と言っておいて,いきなり戦闘しちゃって,良いの?」
「うーむ,何か戦闘シーンを入れておいた方が,読者も飽きなくて良いかな?と思ってね。
もちろん,この戦いも謀略の一環だよ。」
「で,GMが不器用だったというのは,根拠のある話なの?」
「どうだろうね?ただ,機雷除去のテクニックは一朝一夕には獲得できないと思うよ。」
「そうね,少なくともG2号機から得られたデータには無いわよね。」


赤い狐(謀略編)第6夜 投稿日 : 1999年7月30日

元公国突撃機動軍海兵隊,機動巡洋艦『サイレン』の艦長室。
連邦軍大尉の制服をまとった男がそこにいた。
「宇宙攻撃軍の知恵袋とまで謳われた大佐殿が,今じゃ連邦軍大尉かい?落ちぶれたもんだねぇ。」
派手な扇を片手に元突撃機動軍海兵隊少佐が,笑った。

「この服装が気に入らないなら,脱いで話をしても良いんだが………今日は急いでいる。それは
又の機会にしようか。」
男の答えに,女のそばに控えていた副官,デトローフ大尉が目を剥く。
しかし,当の女はさして気にした風もなく答えた。
「そいつは,願い下げだよ。『先生』に手を出して,『カリマンタン』に後ろから撃たれたくは,
無いからね。あの女,柔な顔してるくせに,そのくらいはしかねないからね。」
冗談とも本気とも判らない話をして,女は訊ねた。
「で,『先生』は,あたしらに,何をさせようって魂胆かい?」

「海兵隊の14F部隊や『サイレン』に,何かをして貰おうとは,思っていない。私が欲しいのは
少佐,君だけだ。」
男の限りなく本気の眼差しを受けて,女がたじろぐ。
「あたしを?突撃機動軍本隊からも見捨てられた,このあたしを,かい?」
「あぁ,君の戦力の威力は充分すぎる程知っているつもりだ。だが,君自身の価値はこんな戦力と
は較べ物にならない。ある意味,連邦軍を叩きつぶす最強の力になるんだ。」

女は,その意味する所を図りかねて,隣のデトローフ大尉と顔を見合わせている。
「一体全体,私に何をさせようってんだい?はっきりお言い!」
じれた女は,そう口にした。

男は簡潔に答えた。
「大変,不名誉な事だとは思うが,頼む。連邦軍との内通者となって,死んで貰いたい。」

「何だとぉ!!」
デトローフ大尉が腰から拳銃を抜いた。
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「あれぇ,固有名詞は出さないんじゃ無かったの?」
「いや,メジャーな名前なら隠すんだけどね,彼の場合,誰も名前を覚えていないだろうと思って
使ってみたんだ。名前を出さないと,誰だかホントに判って貰えない。」
「でも,彼女の艦名は『サイレン』じゃなかったはずよ。」
「これは,俺説が入ってるから,そうなってるの。すぐに直すよ。」
「えぇっ!直すの?」
「言っておくけど,訂正じゃないぞ。」


  赤い狐(謀略編)第7夜 投稿日 : 1999年8月2日

G級戦艦の一室,男は最近には珍しく,公国軍大佐の軍服をまとっていた。
もっとも,小惑星帯へ逃亡したと思われている戦艦の中で,連邦の偽装をする必要も無かった。

真っ赤な軍服を着た,もう一人の大佐が口を開いた。
「『陛下の御勘気が解けた』とは,どういう意味かな?先生。」
「意味も何も,その通りの事さ。陛下は今や,全てを御存知で,なお大佐を必要とお考えだ。」
男は答える。但し,陛下の知っている『全て』が,本当に全てか,どうかは,誰にも判らない事で
あろう。

「では,やはり閣下は生きておられたか。奥様からは『お声が違う』『お顔を見せて頂けない』
と不審がる連絡があったと聞いているが。」
「火傷がひどかったのだ。ご夫人に見せるのも憚られるほどに。もちろん一流の医師団がついて
おいでで,包帯が取れるようになれば,全世界中に『我,健在なり』と報じられるご予定だ。ただ,
気道熱傷の後遺症で,怒鳴り声が少し小さくなられたのは,本当に寂しいかぎりだが。」

「なるほど,閣下は影武者を立てるような方では無かった。先生を信用しよう。で『全て』とは?」
「大佐が,暗殺された初代首相の遺児であり『公王家に害するため再入国した』事までは。」
男は,この先の話も知っているぞ,という感じで,さも当然の事のように言った。
狼狽を隠そうとするエースの横顔を,楽しむかのように少し待って,男は続けた。
「もちろん,これが『連邦の陰湿な罠』であり,大佐がお持ちの『誤解』によるものだと,陛下は
御存知でおられる。安心して良いよ。」

「『誤解』?『連邦の罠』?一体何の事です?」
「なんだ?まだ気付いていなかったのかい。よほど,家令の奴に深く洗脳されたんだな。」
「家令?」
「聡明な君らしく無いな?君ら兄妹を我が国から誘拐し,連邦に逃亡した男だよ。
始めからきちんと説明した方が,良いみたいだな。」

「まず,君のお父上は『理想』を求める人ではあったが,決して『夢想家』では無かった。宇宙の
市民が,真の独立を達成するためには,連邦に拮抗しうる軍事力を最終的には保持しなければなら
ない事を理解されていた。戦争を仕掛けるつもりは無くてもだ。『連中が我々の自由を鎖で繋いで
いるのに解き放たれるのを懇願してどうする。せめて,その鎖を毀すヤスリくらい持たなくては』
と,言っておられたよ。」
「父が,ですか?」
「いや,これを言ったのは,お父上の側近で,法学の権威,ドルゲ教授だな。」
「ドルゲ教授か,懐かしい名前だ。確か父のそばで,いつも気むずかしい顔をしていたのを覚えて
いるよ。確か,公職を追放され連邦に亡命したとか,聞いているが?」
「違うな。亡命とは名ばかりで,欧州の収容所に収監されていたらしい。もっとも,ナンセン卿が
私兵を使って,救出に成功したらしいよ。やはり,かなり弱っておいでだったそうだ。」

大佐は男の話を神妙に聞き入っている。だが,はたして,その語る言葉が真実であるか,否か?
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「ついに,あの大佐が登場ね。でも,この話では小惑星帯には行っていないの?」
「そりゃそうだよ。公王家最後の遺児がまだ未熟だから,遠くへ逃れた訳じゃないか!もしも,
父親が健在だと判ればその必要は無いよ。」
「ところで,ドルゲ教授とかナンセン卿とか,怪しい人物の名前が挙がってるけど?」
「サイバーコミックス系の設定からの流用だよ。かなりマニアックなので,実名が挙がっても気付
く人はほとんど居ないんじゃないかな。」


赤い狐(謀略編)第8夜 投稿日:08月07日

「ところで,狐よ!国元はどうなっておるか?」
ベッドの巨漢が男に尋ねた。
「はっ,総帥閣下に引き立てて貰った恩も忘れ,バハロ奴が政権を奪取,連邦と休戦協定を結んだ
由に御座います。しかし,志(こころざし)ある者達はみな,きゃつの指揮下を離れ,捲土重来を
心に秘めて各地に潜伏しております。国民も公王陛下と御一族の戦死の報に驚きを隠せず,政治へ
の関心を失い,にわかな休戦を喜んではおります。しかし,連邦の示す休戦条約の内容の苛烈さを
知れば,条約を結んだクーデター政権を信任する事は,到底あり得ません。陛下ご存命の知らせと
『義によって,立った』との報を知れば,きゃつへの支持は消え失せましょう。」
跪いたまま,男は答えた。

「ぬしの事だ。どうせ,その後の事も考えておるのだろう?」
「陛下に隠し事は出来ませぬな。ドルゲ教授を首班に内閣を組織します。更にホルスト・ハーネス
とカイザス・M・バイヤーに民政面を補佐をさせるつもりです。」
「どいつもこいつも,親父と兄貴が放逐した者達だな!」
「ですが,今の公国の現状を考えれば,人材を選んではおれません。それに,この者達を重用する
事で,10年以上に及ぶわだかまりを消す事が出来ます。」
「まぁ良い。で,政権は何時奪還するのだ?」
「8月上旬に『解散総選挙』が予定されています。バハロ奴は,これで国民の信任を得ようと策し
ておるようですが,それにドルゲ教授と『建国の父の遺児』をぶつけます。バハロ奴ごときの,敵
ではありません。」

「では,軍事面は『あやつ』に任せるのか?」
「いえ,国防大臣にはゾルク・オームラ閣下を予定しています。」
「軍から追放されかけていた教え子の『Blue Giant』を庇い,自分は引退したという将軍だったな。
そう言えば,あの将軍は親父の信頼も厚かったはずだ。おぉ,狐よ。ぬしの先生でもあったな。
待てよ,では『あやつ』には,何の地位を?」

「実は陛下。あの者には…」
その時,ドアが静かにノックされた。
「誰かっ!?」
跪いていた男は立ち上がり,ドアの前で誰何する。

先ほど退出していた看護婦が外から答える。
「奥様がおいでになりました。」
男はベッドに向き直ると,一礼し,
「では,私奴はこれで。」
そう言って,入ってきた婦人と入れ違いに退室する。

ベッドに起きあがった男を見て,婦人に抱かれた赤ん坊は「キャッキャッ」と笑い,包帯だらけの
顔がそれに答えて,笑ったように緩んだ。
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「またまた,怪しい人物名をゾロゾロと出してきたわね。」
「バイヤーとハーネスはちゃんと実在のキャラだよ。ただ,この時代にどうしていたかは詳しくは
判っていないけどね。もっとも,ゾルク・オームラ将軍はオリジナルだよ。」
「名前だけは『ローマ戦役編』にも出ていたわね。」
「『赤い狐』の士官学校時代の教官で,戦略・戦術の基礎を教わった大先生という設定だ。」
「それにしても,『Blue Giant』って,誰?蒼い巨人って居たかしら?」
「小人を意味するドワーフという単語は,天文学では矮星を意味するんだ。だから,天文学用語と
して『Giant』は『巨星』という意味になるんだよ。」


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