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赤い狐(勝利の塔編)第1話  投稿日  200036

L2点の軌道にあり,大戦中は公国の国防の要として働いていた要塞も,昨年末の陥落以後は連邦軍の
管理するところとなっていた。
しかし,次の作戦のための基地として突貫工事で修復された金平糖要塞とは異なり,激戦の傷跡が
深く残るここの修理は遅々としてはかどっていなかった。
どちらかと言えば,無傷で接収された月面基地の方が便利とされ,そちらの管理の方に予算が廻された
ためであった。
つまりは,あわてて使えるようにする必要は無いと考えられていたのである。

しかし,選挙運動その他の動きで月の裏側に緊張が高まり,各地の月面都市で小規模な暴動騒ぎが起き
るなどの事件が重なって,地球圏全体から戦力が集結するに至り,月面都市の基地機能だけでは,艦隊
を収容することが困難となった。
こうして,急遽工事が進められた結果,”傘”は,ようやく昔日の姿を取り戻したのである。

だが,金平糖要塞陥落の事後,月での騒ぎは旧公国派支援グループによる陽動である事が判明し,
”傘”に集まっていた大艦隊は,金平糖奪還のために出撃した。
残されたのは,本来の要塞守備艦隊だけであり,その隻数は,戦艦4隻,巡洋艦12隻,MS80機,
輸送艦6隻を数えるのみであった。
だが,要塞に残っていたのは,それだけの人間では無かった。
要塞の機能を回復するための工事をするために民間から徴用された技術者(スペースノイドのスパイの
潜入を恐れ,ルナ2にいた技術者を主とするメンバーであった。)と,月での暴動騒ぎから逃れてきた
民間人(地球在住の市民であり,商用等で月やサイド3に滞在中であった者達)が,合計2万人も収容
されていたのである。
もちろん,要塞の施設には充分な収容能力があり,食糧等の備蓄もあるため,特に問題では無かった。
公国軍残党の討伐が早急に完了してさえいれば………

サイド3の共和国政府から連邦政府宛に,この小惑星の返還要求が正式に出されていた。
その利用目的は『損傷を被ったコロニーや工業プラントを修理するために必要な資源を採掘するため』
と,されており,平和時には,至極まっとうな要求と思われたであろう。
同様の要求は第3号密閉型コロニーの『マハル』に関しても出されており,名目上は
『平和的な目的のために,宇宙の資源や施設を使おうとしている共和国に対して,軍事目的に利用する
ためにそれを拒んでいる連邦』という図式が出来上がり,地球連邦の株を下げる結果となっていた。
これに対して,連邦軍は『共和国がこれらを手に入れようと画策しているのは,結局この施設を入手し,
再び地球圏に支配権を確立しようと計画しているからだ。』
と宣伝していたが,肝心の共和国が大規模な軍縮を自主的に行っている以上,何の説得力も無かった。

要塞守備隊所属の『ケーニッヒグレーツ』艦長のK.ゴトー大佐は,周辺宙域の哨戒任務を終え,
金米糖要塞から脱出してきた味方の艦隊を収容し,要塞に帰還した。
港湾ブロックでは,C級輸送艦への物資搬入が慌ただしく行われている。

「何が始まるんでしょうかね,艦長?」
「どう見ても,これは脱出の準備といった感じに見えるね?」
「逃げるんですか,何故?」
「私に聞くなよ,………ん,何か?」
「艦長,司令部に至急,出頭せよとの連絡です。」
………………………………………………………………………………………………………………………………
「ところで,ゴトー大佐って,『ケーニッヒグレーツ』の艦長さんだったのよね?」
「そう,元艦長は艦隊旗艦に行ったきり戻って来なかったので,副長の彼がとりあえず代理を務めて,
そこそこの戦果を挙げたので,昇格してそのまま艦長になった事にしている。」
「でも,前の話では1個戦隊ぐらいを指揮している感じだったけど?」
「あれは,あくまで臨時編成の哨戒部隊だったんだ。それで,中でも一番階級が高い彼が指揮を執って
いただけだよ。本来なら少将クラスが戦隊司令として乗ってるはずなんだけど,金平糖要塞討伐艦隊が
出撃したばかりで,バタバタしてて,そこの所はキッチリしていないんだ。」
「ふうん,一応考えてあるんだ。」
「実は考えたけど,ややこしくなるから止めたんだ。艦隊司令と艦長とMS隊指揮官を,ちゃんと使い
分けてメンバーを揃えると………」
「揃えると?」
「『掲示板に収まる話』では無くなってしまうので,止めたの。」


 赤い狐(勝利の塔編)第2話 投稿日  2000312

要塞司令部には総司令官のゴードン中将が待っていた。
「ゴトー大佐,哨戒任務から帰ったばかりで申し訳ないが,君に要塞滞在中の民間人の脱出作業を指揮
して貰いたい。」
「という事は,ここを引き払うわけですか?連邦政府は『ここを共和国に返還する予定は無い』とか,
公式発表していますが。」
「やむを得んだろう。現在の戦力だけで,この要塞を防備することは不可能だ。少なくとも,金平糖に
集結した旧公国軍残党は100隻近い艦艇と500機以上のMSを持っている。16隻の艦艇と80機
のMSでどう戦うと言うのだ?」

「その敵,全部が来ると決まったものでも無いし,月面基地に残っている艦艇40隻,MS200機を
合流させて,要塞に籠もって戦えば,さほど不利でも無いのでは?」
と,言いかけたが,どうせ無視されるのがオチなので,口に出すのは止めた。
「は,判りました。しかし,2万人を脱出といっても,どこまで運ぶのですか?月面の基地までとして
も,6隻の輸送艦をフル稼働させて,3〜4往復させる必要があります。もし,巡洋艦や戦艦にも便乗
させるのなら2往復程度で済みそうですが。」

ゴードン中将はその質問には答えず,
「技術的な事は,補給総監のシンクレア大佐に尋ねてくれ,頼んだぞ。」
と,行ってしまった。

「さて,なんか急に忙しくなっちゃったよ。」
シンクレア大佐を訪ねる前に,シヴァ中尉に『効率的な輸送計画のプログラム』の作成を依頼しておこ
うと艦に戻った所,重大な事態が発生していた。

「何を騒いでるの?」
「あ,艦長,大変です。シヴァ中尉が敵の通信を傍受した内容によると,グラナダ艦隊が壊滅したらし
いです。」
「どうして?月に居たのじゃ無かったの?」
「いえ,どうやら市民感情が悪化し,退去要求を受け入れて,急遽撤収したらしいんです。」
「弱腰だなぁ。」
「仕方無いですよ。退去しない場合は,軍施設に対する電気・水道・酸素の供給を停止させるとまで,
脅迫されてましたからね。」
「いくら何でも,市当局がそんな事を言うかな?」
「いや,脅迫文を出してたのは,反連邦過激派グループの急先鋒なんですが,実際にテロ活動で水道を
24時間停止させたようです。市の警察内にもシンパが居るらしく,犯人は捕まっていません。いや,
それどころか,逃げ込んだ下町では英雄扱いでしょうね。」
「なるほど,自軍基地にいて,兵糧責めに合ったんじゃ逃げ出さざるを得んな。それで,何処でやられ
たか判るの?」
「はい,L1ポイントで捕まったようです。どうも,まっすぐ地球かルナ2に逃げる積もりだったよう
ですね。」
「目と鼻の先に,この要塞があるのに,どうしてまた,そんな事を考えるかなぁ。」
………………………………………………………………………………………………………………………………
「新シリーズが始まったのは良いんだけど,なんだか地味な展開ね。」
「ソロモン王国編で,少しはしゃぎ過ぎたので,その反動かな?」
「でも,見えないところで連邦軍は確実に各個撃破されてるみたいじゃない。L1ポイントと言えば,
例の『鋭き峰』の拠点があった所よね。」
「そう,主力は『ダビデの星』の攻防戦に助っ人参加してたので,留守役にやられちゃった訳です。」
「小惑星帯に逃げるためのエネルギーや資源を再軍備につぎ込んだので,かなりの補充戦力があったと
思ってくれたまえ。それに,グルベンキアン卿の工場で製造された武器で,こちらに廻されているのも
あるし,共和国の国防隊を除隊した兵士でこちらに参加した者も多いはずなんだよ。」
「やっぱ,あんな辺境に逃げたのは間違いだったのよね。」


 赤い狐(勝利の塔編)第3話  投稿日2000年3月26

ゴトー大佐には知る由も無かったが,連邦軍グラナダ基地には『旧公国軍残党艦隊が”傘”に来襲し,
要塞は壊滅,守備艦隊全滅!』という欺瞞情報が流されていた。これを信じたグラナダ艦隊はルナ2へ
脱出する事を決定し,急遽基地を発した。しかし,脱出の航路設定を誤っていた。
彼らは一刻も早く月の影響圏を逃れようと考えた。敵に奪取されたL5点軌道を通るのは論外である。
残るは,L1点を通過するルートと,L4点を通過するルート。だが,L4点のランク政権はもはや,
敵対勢力以外の何ものでもない。それなら,L1点の『茨の園』をかすめる航路でも似たような物だ。
幸いにも,奴らの艦隊は金平糖要塞に出払っているらしいから,まさか40隻以上の艦隊に手を出して
来ないだろうと………。
だが,彼らの読みは外れた。
もし,その艦隊が基地を討伐に来た艦隊であるならば,それは脅威である。
しかし,それらは軍事拠点から追い出された艦隊であった。
艦載機以外の基地所属MSをも積み込まれたMSデッキからの発進は困難を極め,搭載機の出撃は1度
が限度,帰還しても燃料・弾薬等の補給が不可能に近い有様であり,また本来の乗組員以外にも,基地
勤務の軍人や技術者,そしてその家族が便乗したため,艦内は混雑しており,戦闘態勢を満足にとる事
も不可能な状態と化していた。
つまり,この艦隊は,艦隊とは名ばかりの避難民輸送船の集団に過ぎなかったのである。
これを撃滅する事は,『茨の園』の留守部隊にとっては極めて簡単な事であり,事実,半数の艦が為す
術もなく沈められた時,グラナダ艦隊は敗北を認め降伏したのである。

これらの情報は,シヴァ中尉による暗号解読の結果一部を除き入手することが出来,ゴトー大佐は司令
にその内容を伝え,シンクレア大佐を訪ね,いよいよ急務となった脱出計画の概要を定めていった。
そして,事件は起きた。

「L5方面から接近する物体多数を発見。」
要塞司令部に緊張が走った。
「ついに来たな,艦隊を出撃させて,迎撃を行う。」
「司令,待って下さい。敵戦力は観測できるだけでも40隻を越えています。迎撃に出るなど,死にに
行くようなものです。」
だが,ゴードン中将の出撃命令は,結局撤回された。出撃させる当の艦艇が残っていなかったのである。

「誰が勝手に艦隊を出撃させたか!?」
実は,月から脱出してきていた民間人の中に,連邦軍の中枢と深い繋がりを持つ重要人物がおり,彼を
地球へ帰還させるという任務を極秘裏に受け取った艦隊副司令は,司令には内密で艦隊を出撃させたの
であった。そのVIP関係者を乗せた艦隊12隻が,はたして何処まで辿り着けたかは定かでは無いが,
少なくとも地球へ帰還できたという記録は残っていない。

中将は,怒り心頭に発して倒れた。脳溢血である。このため,要塞に関する指揮権はゴトー大佐の手に
渡された。大変迷惑な話である。

「完全に打つ手無しという所かな?」
ゴトー大佐の手元に残されていたのは,巡洋艦8隻とわずか20機のMSに過ぎない。これだけの戦力
で,要塞を守りきる事が出来るのか?そして,2万人の民間人を脱出させる事が出来るのか?
……………………………………………………………………………………………………………………………
「またまた連邦軍の悪い所が出てますね。」
「本格的な要塞攻防戦にするつもりが無かったので,連邦側の戦力を過少にするための策を講じました。
これで,まともな作戦では太刀打ちできないはずです。」
「ひょっとして,副指令が内密で艦隊を出撃させたのって………」
「もしかして,ここに居ない誰かが裏で糸を引いていたかも?って事かい?そんな事まではしてないよ。
だいたい,攻略する側はそんな情報を入手していないんだから。」


赤い狐(勝利の塔編)第4話  投稿日2000年4月5日

勝利の塔に住まう妖怪の名を冠した宇宙要塞。そこに危機が迫りつつあった。味方はわずか巡洋艦8隻
とMSが20機。これに対して攻め寄せる公国軍艦隊は40隻以上。まともに戦っても勝ち目は無い。

「シヴァ中尉,避難民のリストは出来てるね?その中から,サイド3の政財界と繋りを持っている者が
居ないか調べてみてくれ。それから,サイド6の財界とパイプがある人物もだ。急ぐぞ。」
「多分,何人か居ると思いますが?でも,何をするんですか?」
「この忌々しい要塞を,共和国に売り飛ばすんだよ。」

「そんな,無茶な!」
シンクレア大佐と脱出用の輸送艦に搭載する燃料の計算をしていたサカキ少佐が驚きの声をあげた。

「どのみち,この要塞は放棄する予定だったんだ。それなら,欲しがっている共和国の連中に売却して
もかまわないだろう?ここを放棄する事を決定したのはゴードン司令だから,私の責任じゃないし,
その後の手続上の問題に過ぎないよ。」
「では,我々は降伏するんですか?」
「まさか,ここを売った代金で,サイド6から輸送船をチャーターする。いくら,ランク政権が反連邦
に傾いているとは言っても,避難民の輸送ぐらいは請け負ってくれるだろう。」

「まぁ,金さえ出せば,あの国の商人どもは何でもやるだろうさ。で,我々軍人はどうするんです?
『難民の脱出を見届けたら,圧倒的な敵に立ち向かって死を選ぶ。』なんてのは,御免被りたいんだが。」
テクメシュ中佐が一番の関心事を口にする。
そんな事になれば,ここまで逃げてきたのも無駄になる。
「大丈夫ですよ,先輩。今から公国軍と交渉しますが,難民が地球に辿り着くまでの安全を保証させる
つもりです。」
「敵の大将が,話の解る人物だと良いがな。」
「今の公国軍の態勢は『義によって立つ』状態ですから,難民を攻撃したりはしないでしょう。そこに
つけ込む隙がある。つまり,ここの避難民を地球の防衛艦隊の守備範囲まで送り届ける。それこそが,
我が要塞守備艦隊に課せられた崇高な最期の使命である。それを成し遂げた後は,戦場で再び相まみえ,
雌雄を決しよう。と,こう主張する訳だ。」

「艦長,要するに避難民と一緒に脱出させろと言う事でしょ,それはほとんど詐欺ですよ。」

コンピュータを検索していたシヴァ中尉が顔を上げた。
「艦長,かなりの大物が居ました。日系のスギハラ卿です。今は企業経営者ですが,昔はサイド3駐在
の外交官で,しかも,ダイクン派が地球に亡命する際,彼らを匿って地球への入国ビザを発行したとの
経歴がある人物です。すぐ呼びましょう。
それと,ランク政権との交渉役の方も見つかりました。候補者は3人居ますが?」
「3人とも呼んでくれ!」

「艦長,接近中の公国軍艦隊から通信が入りました。」
「よーし,助かった。いきなり発砲されてたら,話にならなかったからな。これで,少なくとも避難民
の話で交渉が始められる。」
………………………………………………………………………………………………………………………………
「戦略的に放棄する事と,領有権を譲渡して売り渡すのとは,意味合いが違うんじゃないかしら?」
「確かに違うよ。単に放棄しただけなら,後で戻ってきて,再度占領する口実があるけど,金銭で譲渡
してしまうと,そうはいかない。でもこの場合は戦争中に連邦軍が占領しただけで,小惑星の領有権は
恐らく公国から共和国に引き継がれてる筈なんだ。グラナダ条約で領土や資産の一部を賠償として取って
無い以上は,共和国の財産だよ。実効支配してるのが連邦軍というだけでね。」
「つまり,日本でいう所の北方領土みたいな物かしら?」
「だから連邦軍が自主的に居なくなったら,共和国は勝手にやって来て,資源採掘を再開する筈だよ。
それを追い出そうとすると,戦争になる。結局,同じなんだよ。」
「逆に言えば,共和国はお金を出してまで買うかしら?」
「なんの為の人質,じゃなかった避難民だと思う?共和国がお金を出さないと,無用な血が流れて
しまうじゃないか。」


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