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赤い狐(勝利の塔編)第13話  00/10/27


閉ざされていたMS発進口を守っていた装甲シャッターは,シュトルムファウスト弾の直撃で弾け飛び,
要塞への突入口は開いた。
ボールの残骸から拾ってきたミラーの破片をかざして中を覗く。
「反撃があると思ったが,やけに静かだな。」
「ちょっと,不気味ですね。」
「火力支援部隊の御到着だ。要塞内に突入する,ブービートラップに気を付けろよ!」

通路を注意深く進む09RIIの一隊,その前に脇の通路から1機のMSが飛び出してくる。
09RIIはマシンガンを向けるが,引き金にかかったその指が止まった。連邦の白い機体では無く,曲面的な
デザインの濃緑の機体=06F2である。そのF2は09RIIに背を向けると,要塞の奥に向かいマシンガンを
撃った。と,同時に要塞の奥からも砲撃が始まる。
09RII部隊も戦闘に参加し,要塞内部に仮設されたトーチカに猛攻を加える。
しばしの交戦の後,ジャイアント・バズーカの直撃が功を奏し,トーチカからの反撃は止んだ。

「やれやれ,やっと片づいたか。こっちの被害はどうだ?」
「大した事は無いが,奴が………」
指し示す先には,脚部を損傷して擱座しているF2が居る。だが,そのF2が
「大丈夫だ,先に行け!俺はここを守る!」
というゼスチャーをしたので,「パイロットは無事」と判断して先に進む。

「俺達よりも先に突入した隊があったなんて,信じられないぜ!」
しかし,それは油断であった。背中を見せた09RIIの列に向けてマシンガンが掃射される。
背後からの突然の攻撃に3機が倒された。しかし,驚きつつも反撃し,たちまちこれを撃破する。

「ケーブルが繋がってる。何処かから操縦されていたみたいだな。」
「たちの悪いトラップだな。最初に自軍陣地を攻撃して我々を安心させるなんて,これを思いついた奴は
厭な敵だな。」
「こんなのが他にも居るとしたら,戦力の分散は避けなきゃならん。敵・味方の識別が難しくなる。」
「捜索に時間がかかるな。」
「敵の狙いもそれさ。だが,下手に疑心暗鬼して同士討ちも困る。敵の手に乗るしかなかろう。」
「判った,親父には状況を説明して,時間がかかると報告してくれ。」

撃破された機体から脱出したパイロット達は,要塞の外に向かう。
「チクショー,ZKに撃たれるなんて最悪だぜ」
「120ミリライフルだっただけマシさ。連邦軍のビームライフルを喰らってたら,3人とも生きちゃいないぜ。」
「あぁあ,また親父に怒られるのか,しかも今回は撃墜記録無し。そうだ,『ワイヴァーン』じゃなくて,旗艦の
『ローテンブルグ』に報告に行こう。そして,弾薬補給に帰ってきた新米の機体を分捕って再度出撃しようぜ。」
「いいな,それ。ただし,タモン親父には話を通しておかないとまずいぞ。」

その頃,要塞の奥に進んだMS隊は,別のトーチカと交戦していた。
「くそー,またかよ。機動戦闘やりたいのによぉ!」
「まったくだ。モグラ叩きばかりじゃ機体が泣くぜ!」
「ぼやくな,南米攻撃の予行演習だと思えばいいんだ。」
「それは,シミュレーションでさんざんやったよ。ま,その経験が今生きてるわけだがな。」


ズュートヴォルケ中将は要塞から脱出してきたパイロット達から報告を聞いていた。
「つまり,要塞内部には巧妙にトラップが仕掛けられているわけだな。」
「はい,制圧には時間がかかりそうです。」
「うむ,対策を検討しよう。それから14Mが1個小隊分用意してある。タモン少将からの伝言は
『もう一働きしろ』との事だ。」
「は?あ,はい!直ちに出撃します!」
「何,長丁場になりそうなんだろう。ゆっくり休んでから行き給え。ゲペックカステンへの弾薬積み込み作業が
完了しておらぬからな。」
「我々が持って行くのでありますか?」
「兵站部隊も新兵揃いで,とても要塞に突入させられん。とでも理由をつけんと,いかにタモン少将の頼みでも,
部隊から機体を取り上げられぬからな。よろしく頼む。」
「ご配慮,ありがとうございます。」

パイロット達は格納庫へ急ぐ。
「さすが,親父だぜ。準備してくれてるとはよ!」
「荷物運びってのはシャクだけどな。」


パイロット達が去った艦橋で,ズュートヴォルケ中将は連邦軍の遅滞戦術の意味を思案していた。
「何が狙いだ?何を考えているのだ,ゴードン中将?」
最初は剛胆な性格の連邦軍司令官を想定した作戦の筈であった。彼の性格を考えて,要塞に接近する以前
の段階での艦隊出撃,迎撃作戦に出てくる事すら予想していた。
だが,この戦いは違っていた。そして,それは連邦軍にとっては悪い方向へと向かっていた。
どれほど要塞の制圧が遅れたとしても,連邦の増援が間に合う可能性は無かった。
「あの大佐が言っていた通り,ここを本気で『アラモ』にするつもりか?」

そして,彼の元に思索を混乱させる更なる報告が届く。
「港湾エリアを完全に制圧しました。しかし,連邦軍の艦艇は影も形もありません。」
「何だと!戦艦4隻,巡洋艦8隻以上が居る筈では無かったのか?」
「いつの間に出撃したのでしょうか?」

「まずいな,第一線級のMS兵力は全て要塞内に突入させている。現在の艦隊直援はヒヨッコばかりだ。」
「第二戦隊を呼び戻しますか?」
「そんな事が出来るか!全艦隊に対空監視を命じろ。奴らは何時来るか判らぬぞ!」

ズュートヴォルケ中将の漠然とした不安が恐怖と戦慄に変わった。
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「ゲペックカステンなんて,また懐かしいネタが復活したわね。」
「赤い狐も連載開始から2周年だからね(オンラインガンダムファンクラブ時代からの通算),古いファイルを
読み直して,アイディアを探してたんだ。」
「ところで,あのオンラインガンダムファンクラブは最近繋がらないけど,どうなったのかしら?」
「ふるさとにでも帰ったのだろうな,ドズル」「フン」
「つまり,知らないのね。ホントどうなったんでしょうね。」
「だから,山ごもり(笑)してるらしいよ。年内中には復帰したいとも書いてあったけど。」
「あと2ヶ月ちょっとの辛抱ね。」
「何が?」


赤い狐(勝利の塔編)第14話  00/11/06

投擲したグレネード弾の炸裂が功を奏したのか,トーチカの反撃は止んだ。
これで一休み出来ると安心した突入隊員であったが,引き続いて起こった爆発音と振動を確認し,
弛緩しかかった神経を再び緊張させる。

「近いな!」
「しかし,この付近で交戦しているのは我々だけの筈だ。」
「すると,敵のトラップかな?」
「全員で移動する。振動源は判るな?」
「はい,1ブロック向こうです。」

だが,彼らが懸念していたリモコンZKは居なかった。代わりに居たのは,倒れたGMと,ノーマルスーツ
を着た20名ばかりの武装した一団であった。だが,彼らの宇宙服はそろっておらず,連邦軍の重装型,
パイロット型,ZION軍のタイプに連邦タイプのヘルメットを被った者等バラバラである。ヘルメットと
スーツの規格が合わないため,首の周りを緊急密閉用テープで覆っている者さえもいる。
彼らがこのGMを倒したのであろうか?だが,頭部とコクピットを吹き飛ばされたGMには語る口が
無かった。
突入部隊のMSを認めた彼らは,両手を挙げた。降伏のサインでは無い,万歳の姿勢だ。
ガッツポーズを取っている者も居る。ある者は背負っていた負傷者を降ろし,赤い布をうち拡げて
力の限り振った。朱の生地に金色の紋章,紛れもない公国軍旗であった。

一番屈強そうな男が飛んできて,コクピットに近寄る。
「我々は要塞内に収監されていた元突撃機動軍の士官以下兵卒です。牢の電気系統の故障に乗じて
脱出。敵の武器を奪いここまで来たのですが,そうか,ついに公国軍はピルツ奪還の兵を興したのだな。
で,外の状況はどうなっている?MS隊がここまで進入しているという事は,もう大勢は決したようなものだ
よな。そうだ,あのもの凄い衝撃は何だったんだ?ピルツが月に落ちたんじゃないかと思ったぞ。」
「なるほど」

「お聞きの通りですが,彼らをどうします?見たところ,負傷者も居るようですし。」
「そうだな,2機ほど護衛に付けて,出口まで送ってやろう。」
「いや,脱出させるのは負傷兵だけで結構です。我々が中を案内します。」
やりとりを聞いていた捕虜が口を挟む。
「いや,お疲れでしょうから遠慮します。それに,元もとピルツは我が城ですよ。道案内が無くとも
迷ったりはしません。どうか,艦に戻られてご養生下さい。」
「そうですか。では御武運をお祈りいたします。」
そう言って,捕虜達は護衛の2機のMSと共に出口に向かった。
しかし彼らの本当の正体は………


話は数分前に遡る。

「そろそろ潮時かな?」
ゴトー大佐が要塞からの撤収を示唆した。
「そうだな。ZIONの猪どもも感づき始めた頃合いだろう。脱出の準備にかかった方が良いな。」
テクメシュ中佐も同意する。要員のほとんどは疲労困憊の極みにあるのだ。

「ビーム攪乱粒子戦法は予想通りでしたが,衛星ミサイルの高速衝突は想定外でした。光学的
観測系があの衝撃でほとんどやられてしまいました。あれさえ無ければ,戦艦を3〜4隻沈めて,
もう少し楽な脱出が出来たんですけれど。」
シヴァ中尉が残念そうに漏らす。

「うむ,こっちの準備のための時間稼ぎが,あちらさんにもうまく使われてしまったな。あれほどの
大きさのミサイルをあの時間内に用意出来るとは思わなかったからな。動力源に遺棄されたMS
のエンジンを使うことぐらい予測しておくべきだったよ。これは私のミスだ。」
「なに,まだまだコッチの意図は捕まれていないようだし,これから始まる作戦でミスが無ければ
大丈夫さ。」
士官学校の先輩でもあるテクメシュ中佐は,上官であるゴトー大佐にも遠慮が無い。
もっとも直属の関係でなく,陸戦隊指揮官と艦隊司令官とのそれぞれの領分の違いがあるから
「軍紀がどうの」という話にはならず,ゴトー大佐も気にしてはいないようである。

「シンクレア大佐が艦隊を反転させて来る予定時刻だな。よし,リモコンMSとトーチカの火器を
全自動にセットして脱出準備にかかれ!」

要塞内の一室で,あわただしく撤収の作業が進められた。もっとも事前の準備は出来ていたので,
用の済んだコンピュータシステムを停止させ,メモリーをクリアする程度の事が行われたに過ぎない。
全員がノーマルスーツに着替え,部屋を出る。

「急げよ,ここのエアもそろそろ抜けるぞ!」
さすがに,動き易いスーツを着用したテクメシュ中佐率いる陸戦兵が,武器を片手に皆を誘導する。
そして,一人は大きな布を持っていた。朱の地に黄色で紋章が描かれている。

3ブロックほど進んだところで,MSに出くわした。自動操縦のGMである。もちろん,対歩兵戦闘を
プログラムしてはいないため,彼らの存在を無視している。いや,本当に認識していないのだ。
「近くに来てるか?」
「は,先ほど1ブロック向こうのトーチカと交戦中でしたから,まだ近くに居るはずです。」
「よし,やれ!」
テクメシュ中佐の命令で,GMの頭部と腹部コクピットハッチめがけてバズーカ砲が撃ち込まれた。
無抵抗のGMはこれをマトモに喰らい,動作を停止する。そして,その音と振動を聞きつけて,
敵攻略部隊のMSがやって来るはずである。

「来たぞ,ZION語が堪能な者以外は喋るなよ。フォンク大尉とルーク中尉は負傷者の真似だ。
我々をこの忌々しい要塞から解放してくれる部隊だ。歓迎してやろう!!」
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「ソロモン王国編のラスト以来忘れ去られていた連邦軍のエース二人も復活ね。彼らが活躍する
機会はあるのかしら?」
「どうしようか迷ってるよ。最初の予定では,ゴトー大佐らは避難民と一緒に脱出させておくつもり
だったからね。自動砲台と無人MSだけで戦いを済ます予定だったんだ。」
「それが,どうして少数で居残りになったの?」
「いや,それじゃ攻略軍があまりにも無能に見えるからね,馬鹿相手に戦って知謀を誇るなんて
描写は出来るだけ避けたいから。」
「そう言えば,ソロモン王国編では連邦軍は『馬鹿ばっか』だったわね。赤い狐が居なくても勝てた
んじゃ無いかしら?」
「戦力差が有りすぎるからね,これを埋めるまでは連邦軍には無能でいてもらわなくては。それに,
ソロモン王国編には狐は出ていないよ。」
「そう言えばそうね。どこかで,ガールハントでもしてたのかしら?」


赤い狐(勝利の塔編)第15話00/11/21

「敵艦隊らしきもの,4時方向より接近中,数は8隻前後!」
「8時方向からも接近する物体を視認,戦艦2,軽巡6!」
索敵班からの報告がローテンブルグの司令室に届いた。

しかし,ズュートヴォルケ中将は
「直ちに,迎撃準備を!」
と言う参謀の意見を退け,さらに索敵を強化するよう命じた。

「何か不審な点でもおありですか?」
「赤外線探査で,敵艦隊らしきものの後方に広範な熱反応はあるか?」
「いえ,確認できておりません。」
「やはりな。宇宙艦艇を高速で機動させた場合,後方に広く排気ブラストが拡がる。
それが無いと言うことは恐らくダミーだ。軽量なダミーの加速にはさほどのエンジン
噴射が要らないからな。注意を怠るな,ゴードンの本隊は別の方角から来るぞ。」

「司令,タモン少将から意見具申が出ておりますが?」
「繋げ!」

レーザー回線により『ワイヴァーン』艦橋との通信が繋がる。
「司令,敵は恐らく太陽の方向から来ます。確認用に発砲の許可を下さい。」
「どうする積もりだ?」
「照明用フレア弾を有効最大射程で太陽に向かって撃ちます。もしも,敵が鏡面迷彩を
しているなら,発見できるはずです。」
「なるほど,やってみる価値はあるな。だが,それは他の艦にやらせよう。第二戦隊は
先ほどの要塞への攻撃で,ミサイルを消耗しつくしたはずだ。直ちに補給をしておけ!」

ズュートヴォルケ中将はそう命じると,麾下の直属艦艇に照明用ミサイルの発射を命じた。
敵艦隊との交戦において,最も有力な手駒となる(と云うよりも,戦力として期待出来る
唯一の存在である)タモン提督の第二戦隊への補給を,早急に済ませておく必要があった
のである。

「ミサイル,射出されました。目標位置まで,あと60秒」
ローテンブルグの司令室で,静かにカウントダウンが始まる。

「………3,2,1,照明弾起爆!」

要塞宙域と太陽とを結ぶ直線上で多数の照明弾が炸裂する。
もちろん,この光は太陽の光に比べれば非常に微弱なものでしか無い。しかし,その宙域
を側面から移動しつつ照らし出す効果を現したのである。

「強い反射光を確認,おそらく敵艦隊でしょう。今のフレアで敵艦全てを発見できたとは
思えませんから,まだ居る可能性もありますが,光点は12個です。」
「ようし,コッチが本物だな。念のため,フリッパーを3機偵察に出せ!それから,補給
中の第二戦隊を除く全艦隊に迎撃を命じろ!」

「司令,第二戦隊は良いのですか?彼らこそ一番の戦力となりますが。」
「なぁに,他の艦艇がモタモタしているうちに,タモン提督が一番に突っ込む事になるさ。
奴にはちょっと遅れて命じるくらいで丁度良い。」

確かに,新米艦長や護衛MS隊指揮官たちの混乱ぶりは相当なものであった。
ベテランのMSパイロットと歴戦の艦長達であれば,ミノフスキー粒子下においても,
簡単に意志の疎通が可能であったが,どちらの練度も少しずつ不足しており,無闇に発光
信号を点滅させ,レーザー通信回路を開こうとして失敗し,最後には着艦して有線会話に
すがるという始末であった。
こんな状況では敵艦隊への迎撃シフト配備がすみやかに整うはずも無かった。
タモン少将の第二戦隊への補給が完了するに至ってなお,まだ陣形は整っていなかった。


「偵察に出したフリッパーから通信です。敵艦隊の存在を確認出来ないそうです。」
「馬鹿な!ゴードンの艦隊は何処かに居るはずだ。」
「照明弾の光を反射したモノが確認できました。連邦軍のS・システムの残骸ミラーです。
一杯喰わされました。」
「つまり,鏡だけを宇宙に流して,我々に『その影に敵が隠れている』と思わせた訳か!」
「では,敵の艦隊は?」
「しまった。太陽から来る奴が本命と思って,全艦艇をそちらに向けている。他方向への
注意は散漫になっている。まずいぞ!全艦隊に対空監視を!!」

しかし,陣形変更最中の新米艦隊には,それは困難な命令であった。ただでさえ混乱して
いる状況に一層拍車がかかる。

そして,その混乱をMSの一団が襲撃した。
要塞内部に突入した捜索・掃討MS部隊の目をかわしつつ移動していた,連邦軍の最後の
MS隊であった。わずかに10機による奇襲であったが,要塞包囲陣形から連邦艦隊迎撃
のために陣形移動,そして突然の取り止めに大わらわの公国軍艦隊は隙を衝かれ,ろくに
反撃も出来なかった。それでも,即応体制にあった対空砲火が迎撃の火線を上げる。
しかし,ろくに命中するはずも無い。

「敵機,速いぞ!」
「むぅ,高機動戦タイプによる一撃離脱戦法だな。MSによる迎撃以外の方法で,これを
相手にするには,艦艇を密集させ,艦隊の全防空火力で弾幕を張るしかない。今の練度で
は,到底無理な相談だな。」
ズュートヴォルケ中将も思わず愚痴が漏れる。

プロペラントタンクとブースターを増設して機体の機動性を向上させたGMは,まばらな
機銃砲火を軽くかわして艦隊に接近,手にしたマシンガンを撃ちまくり,艦隊を翻弄する。

旗艦ローテンブルグも命中弾を受けるが,一年戦争の教訓を受けて改良されている船体は,
100ミリ機関砲弾をなんとか弾き返した。被害を被った他の艦も航行不能に陥るような
致命的な損傷を受けたものは居ない。

「助かりましたな,司令。これが,バズーカやビーム砲だったら危ないところでした。
しかし,何故奴らは対艦用の装備で出撃して来なかったのでしょう?」
「取り回しの不便なバズーカでは,直衛の我がMS隊との戦いになった時に不利だろう。
ビーム砲の場合は,対艦攻撃・対MS戦闘どちらでも使えるが,ビーム発射用の起電力に
ジェネレーターのパワーが喰われる。それではあの加速力が使えない,対空砲火の餌食と
なる可能性もある。その辺りの勘案だろう。」
「我が直援MSが,マトモに機能しておらず,緊密な対空砲火も満足に撃てない状態とは
さすがに敵も思いも依らなかったわけですな。」
「ゴードン中将は我々を侮るような作戦を立てたりはせぬよ。しかし,今の一戦で我々の
力量を見破られた可能性は高い。今後の作戦は慎重にやらねばな。」

「これ以上に慎重な作戦がどこにあるのだろうか?」
と,参謀は思ったが,さすがにクチには出せなかった。
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「また,公国軍に描写が変わったのね。」
「状況に応じて,カメラ位置を変化させるのは,エンターテイメントの常識さ。」
「というよりも,読者を混乱させるためのトラップよね。ところで,『鏡面迷彩』という
怪しげな造語が登場してるけど?」
「確かに怪しげな造語だね。まぁ要するに,『人間は鏡を見ることは出来ない。』という
原理を応用した宇宙用の迷彩の事だよ。ソロモン王国編第7話で使った戦術や,同12話
に登場したミラーボールといったメカで使われている技術さ。」
「でも,あっさり簡単に見破られたみたいだけど?」
「そりゃ,自分らが使う以上,敵が使った時のための対処方法も考えてあるさ。対処不能
な戦術なんてありはしないからね。」
「『鏡面迷彩』に関する詳しい解説は,『ボール・センチュリー』の『おらたま』に投稿
してある『ミラーボール』を読んでね。」
「何,宣伝してるの?」

http://www2.plala.or.jp/kobaruto/


 赤い狐(勝利の塔編)第16話 00/12/10

話は少しさかのぼり,弾薬補給を終えたワイヴァーンの艦橋では………

「なに?!聞こえない」
タモン少将は要塞攻略から補給と機体冷却のために帰還したMS小隊から報告を
聞いていたが,雑音がひどく,通信は乱れていた。

「MSが居ないそうです!」
その通話を,かろうじて聞き分けた参謀がフォロウする。
「あの09RIIは?」
「ヘルスゥのです!奴は要塞坑道内で,GMをまったく見ていないと言っています。」
「馬鹿なっ!で,ではどこにいるのだ?連邦のMS隊は!」

「確かに,劣勢な戦力を消耗させないために温存するにしても,こうまで要塞奥に侵入
して,いまだMS部隊による反撃が無いというのもおかしいですね。」
参謀のつぶやきを,タモン少将はさえぎって言った。
「俺が連邦の指揮官なら,今のこの混乱した我が艦隊を狙ってMS隊を発進させて,
攻撃するぞ。」
「なるほど,では敵のMS部隊は奥に引きこもっているのではなく,入り口に近い箇所
で,息を潜めて我が捜索の目を逃れていた可能性もありますね。」
「敵が,我が艦隊のこの惨状を見逃す筈は無い!MS隊は要塞から出撃した筈だ!
どこなんだ!」

その時,オペレーターが叫んだ。
「タモン提督!」
「何か?」
「ゼロ方向から接近するものがあります!」
「なんだぁ?」
「MSらしきもの複数………!高熱源体多数接近!」
「マシンガンか?!」
「本艦にではありません!」
「ローテンブルグか!」

「ズュートヴォルケ司令!よけるんだぁー!」


「旗艦『ローテンブルグ』に被弾!」
ワイヴァーン艦橋で,オペレーターがやや楽しげに報告する。
「直ちに,被害状況を確認のため通信を試みましたが,応答なし!司令部に被害があったか,
あるいは,通信施設に重大な損傷を被ったものと思われます。」

タモン少将はそれを聞くや,襟を正して通信装置の前に立つ。
「敵の奇襲により,旗艦は被弾,現在司令部との通信は途絶しておる。よって,これより
我が第二戦隊は,独自の判断により作戦を継続する。」

通信機の向こうでは,兵らが喝采を上げている事を承知しながらタモンは続けた。
「これより,我が艦隊に奇襲を敢行した敵MS隊を追撃する。敵艦隊の所在は不明なれど,
敵MSの逃亡先には必ず迎えの艦隊が居る筈である。第二戦隊は直ちにこれを急襲し叩く!
なお,要塞内にて掃討作戦中のMS隊を収容する事は,敵を追尾する時期を逸する恐れが
あるため,直援MS隊のみを護衛とする。以上,直ちに発進!!」


ワイヴァーン以下の第二戦隊が動き始めたのに,ローテンブルグが気づいたのは,しばらく
経ってからであった。ただでさえ混乱していた陣形を連邦軍MS隊の突入でかき回され,
全艦艇がその回復のための運動で機動し,その動向を監視(僚艦との衝突を防ぐためという
非常に情けない理由で行われた)するために忙殺されていたのである。

「司令,第二戦隊が勝手に動いています?!」
「どうやら,先のMS隊を追撃するようすですね。」
オペレーターは,さもありなんと言った風情で報告する。
確かに敵艦隊の所在が不明な今は動かず待ち続けるか,タモン提督のように「取りあえず,
目の前の敵を討つ。」の二者択一しか無かった。
不利な情勢下を,受ける損害を最小限に押さえて耐え凌ぎ,敵軍が犯した僅かなミスを突き
勝利を勝ち取るタイプのズュートヴォルケ中将は前者を選び,見敵必戦をモットーとするタモン
少将は後者を選択したのである。

「ワイヴァーンとの通信は可能か?」
「我がローテンブルグの通信装置の被害は軽微でした。既に復旧完了していますが,先方の
受信装置が不良との事で,会話は困難な状態です。」
「タモンめ,俺の声が聞こえない振りをしておるな。」
「第二戦隊より発光信号,『ワイヴァーンハ健在ナリ』とのことですが,いかがいたします?」

「あのMS隊を追撃して,敵艦隊を捕捉するつもりだな。」
「しかし,第二戦隊には充分なMSが残っておりません。反撃を受けると危険ですが?」
「えぇい,今すぐ動かせるのはどの隊だ?」
「補給が完了したばかりの第14中隊が居ます,C装備ですが?」
「かまわん,奴につけてやれ!」
「では,第二戦隊には?」
「発光信号,打電!『第二戦隊は敵MS隊を追跡し,母艦を殲滅せよ!』とな。」

「は!」
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「今回はまた,えらく安直なパロディになったわね。」
「原作ほどには悲惨な状況ではないから,まだ救いようがあるけどね。」
「有力な艦隊が出て行ってしまって,艦隊は大丈夫なのかしら?」
「戦力分散の危険と,兵の士気をどう維持するか?の苦しい選択だと思ってくれたまえ。
今回一番苦労してるのはズュートヴォルケ中将かもしれないね。」


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