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 赤い狐(勝利の塔編)第17話   00/12/30


「そろそろ,出口だな。」
直角になっていた角を曲がると,宇宙の星空が通路の先に見える。
2機の09RIIに護衛された,脱走捕虜の一団(実はこれを装った連邦軍兵士)は要塞の入り口
近くにまで近づいていた。

「うぅっ!!」
負傷兵が急に傷みを訴えた。
「おい,大丈夫か?」
「しっかりしろ,もうすこしの辛抱だ!」

捕虜の一人が,MSのコクピット近くに近づいて来て,パイロットに尋ねた。
「病院船は来てるよな。どっちの宙域に居るか判るか?」
「あぁ,Sフィールドの4番エリア後方に待機しているはずだ。ここを出たら,すぐにでも連れて
行ってやるよ。」
「なるほど,Sフィールドの4番エリアだな。ちょっと遠いか………」

苦しんでいる負傷兵に付き添っていたもう一人も飛んできて尋ねた。
「痛みが激しそうだ。鎮痛剤が必要だが,MSのサバイバルキットのモルヒネを分けてくれないか?
奴には,今それが必要なんだ。」
「判った。すぐに出そう。」
09RIIのパイロットはキットの医薬品ケースを持ち出して,外に出た。
「助かる。恩にきるぞ。」
「なに,お互い様だ。」
そう言って薬を抱え,負傷兵に近づこうとしたパイロットの背後を連邦軍憲兵隊司令である
テクメシュ中佐の手刀が襲った。

医薬品ケースを放り出して,ノーマルスーツ姿のパイロットが力無く宙に浮く。

この異常事態にもう1機のパイロットも気づく。
「どうした!?」

「狙撃兵が居るぞ!」
「物陰に隠れろ!」
「誰か,あのパイロットを回収しろ!まだ,息があるぞ!!」
そう叫びながら捕虜達はそれぞれ移動して,物陰に隠れる。

09RIIのパイロットは混乱した。対人用の狙撃用ライフルごときで,MSを攻撃出来る訳は無い。
だが,相手がどこに潜んでいるのか判らない以上攻撃も出来ない。そして,捕虜達が最も多く
隠れた場所は2機の09RIIの四肢の隙間であり,うかつに動く事も出来なくなっていた。

「敵の狙撃兵は何処だ?」
ボリュームを最小にして外部に流し,捕虜達との交信を試みる。
「左側の通路,1ブロック先の扉の陰だ。見えるか?」
「いや,確認出来ない。銃らしいものは見えないが?」
しかし,狙撃兵が敵を撃った後で身を隠さない筈は無いので,既に移動したと安心も出来ない。

意を決したか,その方向に目を遣りながら,一人がコクピットハッチ付近まで飛んでくる。
「何にせよ,彼をあのままにしてはおけんだろう。我々が引き取りに行ったら蜂の巣にされるかも
しれんが,君が救出に行っても手は出さんと思う。」
「判った,機体を動かすから,MSのそばに居る者は離れてくれ!」

彼は狙撃兵を警戒しつつ(09RIIに対しては効果は薄いかもしれないが,相手が対MSミサイル
を持っている可能性もあるのだ)傷ついたパイロットを回収する。

しかし,両掌で受け止めた同僚の体には銃撃を受けたらしい傷が見えない。
「どういう事だ?狙撃兵にやられたんじゃ無かったのか?」

「こういう事さ!」
無人の筈の09RIIが動き出し,彼に向けてマシンガンを構えている。

「貴様ら,我がZIONの兵士では無いな!」
「機体から降りてもらおう。言うまでも無いが,反撃は無意味だぞ!」

確かにそうだった。パイロットを救出するために武装のジャイアントバズーカは放り出しているし,
パイロットを掴んだままではヒートサーベルも抜けない。威力は目眩まし程度しかないと言われるが
今の状況では非常に有用な使い道があるはずの,唯一の固定武装である拡散ビーム砲も
正面に負傷したパイロットを抱えている以上,撃つことが出来ない。

彼は仕方なく従い,コクピットを降りた。
入れ替わりに,負傷兵の振りをしていたパイロットが乗り込み,負傷したZIONのパイロットを
手放す。
「安心しな,当て身を喰らってノビてるだけだ。少しすれば,気がつくよ。」

そう言い残して,捕虜を装った連邦軍兵士達は去った。ZIONパイロット達を空き部屋に閉じ
込めて。鍵をかける必要は無かった。爆風で歪んだらしい扉は,MSの力でようやくこじ開けられ,
そして,閉じられたのだから。

だが,閉じこめられたパイロットも抜かりなく行動した。部屋の中の通信回線を引っ張り出し,
ノーマルスーツの個人用通話器と接続して,要塞内に当てずっぽうに現況を通信したのである。
この通信は,要塞に取り付いて,通信回線をハッキングしようと試みていた電子戦部隊員達に
すぐさま傍受された。
直ちに救出部隊が派遣され,彼らは解放されたが,その間わずか5分。しかし,09RIIを奪った
敵は既に要塞を脱出した後であった。
気絶していたパイロットも回復し,彼らが病院船の位置座標を知りたがっていた事が判明すると
その方面への警戒が呼びかけられた。

が,この時,艦隊は混乱の渦中にあり,とても対処が可能な状態では無かった。
辛うじて病院船へ2機の09RIIを警戒するようにと連絡が届いたが,09RII2機によるロッテは
そこら中に飛んでおり,却って余計な不信感を抱かせるだけであった。
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「ゴトー大佐らも無事脱出したようね。」
「やっと,要塞出口まで辿り付いて,敵のMSを奪っただけだから,まだまだこれからさ。」
「やっぱり病院船を奪うのかしら?」
「まさか,そんな無謀な作戦は取らないよ。もっと合理的に行く。」
「ところで,電子戦部隊が居るって事は,MS部隊以外にも陸戦隊が乗り込んできてるのね。」
「当たり前だよ。MSでは拠点にたてこもった敵を『殲滅』はできても,『征圧』は出来ないからね。
いくらMSが人型をしてるからって,歩兵じゃない。タコツボに潜んでいる敵を引きずりだして
降伏文書にサインさせるには,歩兵の銃剣が必要なのさ。」


赤い狐(勝利の塔編)第18話 00/12/30

公国軍第二戦隊は,まだ見ぬ敵艦隊を求めて,逃走中の連邦MS隊を追跡中であった。
そして,そのワイヴァーン艦橋ではタモン提督がじりじりしていた。

「まだ,追いつかぬのか?」
「ズュートヴォルケ中将が送ってくれた増援のMS隊を収容していた時間が惜しかったですね。」
「言うな!14Cの1個中隊は有難いものだぞ。ビームキャノンさえ封印させておけば,機動力は
B装備と大差は無いからな。対MS戦での不利を補ってくれて余りある存在だ。」

「敵MS,1機を発見!」
オペレーターの報告を皆が訝しがる。

「1機?どういうつもりだ?」
「加速を停止しています。最大望遠画像で転映します。」

正面モニターに浮かび上がったのは,右脚部と右腕を失って漂流中のGMの姿だった。
国際規格の救難信号燈が弱々しく点滅している。

「ははぁ,デブリとクラッシュしたな。」
「いかがします?あれを救助するとなると,敵の追撃がまた遅れる事になりますが。」
「あるいは,我々を足止めするために,わざわざアレを残したとも考えられる。」
「しかし,放っておく訳にもいかんでしょう。」
「捕虜を収容する余裕は無い。コクピットに損害は無さそうだからパイロットは無事と判断する。
救援用の物資を速度同調で放出してやれ。戦隊は敵の追跡を優先する。」

この戦隊を率いていたのが,慎重なズュートヴォルケ中将であったなら,破損し漂流中と思しき
GMを調査していたかも知れない。公国軍は未だ1兵も連邦軍から捕虜を得ていないのである。
MSのパイロットとはいえ,何かの情報が得られたかも知れないのだ。
無論,捕虜となった敵兵士が情報を漏らすとは限らない。むしろ,それはほとんど期待できない
であろう。だが,わずかな言葉のやりとりから相手の真意が窺える事もあるのだ。

だが,タモン提督はそれよりも敵の追撃を優先した。
後知恵をもって分析するならば,プロペラント増槽を装備したMSを1個小隊も派遣して,漂流中
のMSとパイロットを回収,要塞攻囲中のズュートヴォルケ中将艦隊に引き渡すべきであった。
しかし,わずかなMS部隊しか装備しておらず,これから連邦軍艦隊を撃滅すべく追跡中の
第二戦隊にその余裕は無かったのも事実である。
全てを知った時,タモン提督はただ笑うだけだったという。


「敵の足は止まらぬな。」
「はい,このままの速度を維持しつづけると地球圏から軌道を離れてしまう可能性があります。」
「妙だな。いかに艦隊が収容してくれると仮定しても,この速度では回収が困難となる筈だ。」

「計算結果が出ました。連邦艦隊が地球軌道内から離脱せずにあのMS隊を回収するためには
後2分以内に減速を始める必要があります。」
「当然,最大戦加速だな?」
「そうです!」
「追撃してきた我々と交戦するためには推進剤を残しておく必要がある。最大加速は避ける筈,
ならば,もうそろそろ減速し始めなければな。」

だが,報告はその予想に反するものであった。
「しかし,妙です。敵MS隊の進路軌道上に連邦艦隊らしきものの姿が確認できません。」
「粒子濃度は?」
「クリアーです。レーダーでも確認出来るはずなんですが………あっ!敵がさらに加速!」
「何だと?」
「プロペラントタンクを放出し,最大加速で逃げて行きます。」

「どういう事でしょうか?」
「恐らく,あのMS隊を回収するための艦隊は,規模の小さな部隊だったのだろう。我々の追撃に
気づいた彼らは,そこへ我が艦隊を誘導する事を懸念して,母艦に収容される事を諦めたのだ。」

「では,彼らは」
「回収される事を放棄し,あえて宇宙の孤児となる道を選んだに違いない!」

オペレーターが冷徹に彼らの運命を報告する。
「敵MS隊,地球軌道からの離脱を確認。」

「提督,追撃は中止し……」
参謀の進言を差し止めて,タモン提督は敵の消えていく虚空を睨み続けた。
「味方艦隊を守るため,あえて我が身を犠牲に供する。敵ながら天晴れだ。良く見ておけ!これが
戦士の生き様なのだ。ふははは,連邦軍にも,まだまだ『もののふ』が居るわい。」

艦内に状況が伝えられ,MSの発進準備作業は止められた。対艦隊攻撃は空振りに終わったのだ。
だが,作業中止に伴うざわめきは無かった。
各種通信モニター類には連邦軍MS隊が飛び去った宙域が転映され,手の空いた全員がそこに
向かって敬礼していた。当然ながら,艦橋ではタモン提督自らも彼らに最敬礼していた。
後で思い出したら恥ずかしい光景である。

業を煮やした参謀が,少しだけ声を荒げた。
「提督,そろそろ回頭しませんと,我々も宇宙の孤児となりますぞ。」
むろん,これは単なるジョークであり,推進剤の余裕は充分に有った。
しかし敵艦隊を撃滅できなかった上に,要塞攻囲中のズュートヴォルケ艦隊の情勢も不安があるため
早急に要塞へ戻る必要があったのである。

「うむ,艦隊一斉回頭180度,直ちに要塞宙域へ向かう!」
「は!」

連邦軍MS隊の勇敢な行動に感動していた提督を現実に引き戻したのは,参謀の心ない一言であった。
「しかし,あの機体を損傷していたGMのパイロットは英雄になり損ないましたなぁ。」

「なんと!」
「あ,いえ,今度は急ぎませんので,帰路拾い上げてやりましょう。そして,あの英雄的な行動を示した
パイロット達の名前なりを教わりませんと,供養も出来ませんからね。」

「そうだ,奴らは何故降伏しなかった?回収艦隊と会合出来ずとも,我々が追尾しつつあった事を
気づいていた筈だ。断じて死を選ぶ必要は無かった。」
「連邦の正義に殉じる………,馬鹿な!あり得ませんね。確かに変です。」

「うむ,だがそれも,あのパイロットを回収して尋問すれば判るかもしれんな。」

しかし,結局それは適わなかった。要塞へ戻る途中において,第二戦隊は破損して漂流中のGMを
捜索したものの,それを発見できなかったからである。
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「あれ,今日は2話連続なの?」
「明日から帰省するんで,ちょいとまとめ書きしました。そろそろ事態の収拾を図らねばならないし。」
「前回でゴトー大佐らが脱出してしまったから要塞の中ではもう話は無いし,艦隊を襲撃したMS部隊も
宇宙の藻屑と消えたし,確かに戦いは終焉を迎えつつあるみたいね。」
「後は,脱出者をシンクレア大佐の艦隊が救出できるか?さ。」
「ところで,MSのエンジンで地球軌道からの離脱が可能なの?第二宇宙速って秒速11.2kmも
あるんでしょ?」
「月軌道上での第二宇宙速はわずかに秒速1.45kmしか必要ないんだ。同じ軌道上での第一宇宙速
が秒速1.02kmだから秒速450メートル,時速換算で1,550kmも出せば惑星間宇宙に飛び出して
しまう。」
「でも,マッカデン少佐とかは秒速5kmとかという速度を出してたみたいだけど?」
「減速して戻って来れれば問題ないの。『計算結果』は残りの推進剤の事も考慮に入れての話だからね。」
「計算なんかしてるの?」
「まさか,推進剤の総量が設定されてないのに?適当な話だよ。」


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