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”赤い狐”第19話(アキロニア戦記編)

「フェードラー大尉,作戦準備は出来まして?」
「はい。後は地上の都合に合わせて移動するだけです。ですが……」
「何か,問題でも?」
「ケーブルの強度は問題有りません。ただ,上層大気との影響がどうなるかは,
まだ,未確定です。」
「それに,熱に対してどの程度まで保つか?それも問題でしたね?」
「はい,少佐。こちらの方はシミュレーションが簡単なので計算しました。」
「結果はどうなの?」
「15分以上は無理です。材質の経年疲労も考慮し,安全のためには10分
が限度でしょう。」
「それだけあれば,十分降りられるわ。どっちみち,相対速度が大きくて,
回収には僅かな時間しかとれないはずよ。」
「それはそうですが,こっちが待てる時間が長いほど,地上の作戦も余裕が
あるはずですし,最悪の場合はこっちが止まれば,なんとかなります。」
「大丈夫よ。あの子達がこの艦を見つけて,クラウスが誘導するのですよ。
レーダーや,通信網が完備されていた時代以上にうまく行くわ。」
「レイラ少佐にそう言って頂けると,我々も安心できます。では,作戦開始
まで待機します。」
「できたら,大気の影響をシミュレートしてみてね。お願い。それから艦の
護衛について話があるから,ヒュウガ大尉を呼んで下さるかしら。」
「白虎隊隊長は今,外縁哨戒中です。艦内にいるのはイヌマ中尉くらいです
が,彼を呼びましょうか?」
「いいわ,ヒュウガ大尉の帰艦を待つわ。大気による影響の計算結果が出た
ら,至急教えてね。」

そう言って,フェードラー大尉を送り出したレイラ少佐ではあったが,艦長室に
一人きりになると,地上に残してきた良人の安否を祈らずにはいられなかった。
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「結局,今回も「カリマンタンの奇妙な活動」の謎は解けなかったのね。」
「まだまださ。まだ,赤い狐とシマール兄弟の再会も果たしてないしね。」
「ところで,また新キャラ(ヒュウガ大尉)が出てるけど?」
「気にしなくていいよ。クリスマスイブの戦いでは”狐”に威を貸すだけの
ために登場する”虎”の一人だし,大晦日には全滅しちゃう人だから。」
「やっぱり,ネーミングは幕末からかしら。」
「その通り,あんまり考え過ぎると話を進める事が出来なくなるからね。」
「話を進めるって,次回で20話よ。そろそろ終わりじゃないの?前回でも
物語を収拾するって,言ってたじゃないの。」
「実は,今までの戦いは「アキロニア戦記」の前哨戦に過ぎなかったのだ。」
「そんな,馬鹿なぁ!!」
「冗談だよ。後は赤い狐が二人を連れて宇宙に帰るまでの話が残ってるだけ
だよ。」
「とか,言って,また怪しげな代物をU−99に運び込んでるみたいだけど,
あれは何なわけ?」
「ギクッ……。うーむ,アレも廃物利用だとだけ言っておこう。」


”赤い狐”第20話(アキロニア戦記編)

海まであと数kmという所だった。
右肩にキャノン砲を装備した機体が,がっくりと膝をついた。剔られた脇腹
からはリキッド類が噴き出しており,再起は不可能のようだ。いや,たとえ
立ち上がれたとしても,自慢のキャノン砲はねじ曲げられており,両腕関節
も火花を散らしている。もはや脅威ではなかった。
ハルトマン中尉が後ろを振り返ると,M−03がGMの首を捻り潰しながら,
腹部のビーム砲を敵の胴体に浴びせている。ビームガンがあさっての方向に
何発か発射され,そして静かになった。もう一体の連邦軍機はコクピットを
クローで貫通され,仰向けに倒れている。とりあえず戦闘は終わった。

しかし,GMを放り出し,ハルトマン中尉の方に近づいて来たクルツ伍長の
M−03の足が止まるのと,M−07Sの反応炉が非常警報を鳴らし始めた
のは,ほとんど同時であった。
「中尉,こっちは膝関節がもう無理です。海にさえ届けばあとはどうとでも
なるんですが,残念です。」
「俺の機体の方は,冷却水を補充すれば,まだ何とかなりそうだ。すまんが,
そっちの分を分けてくれ。」
「構いませんよ。どうせ,この機体ではもう無理ですから。」

その時,アンリが目を覚ました。
「ふぁー,よく寝たなぁ。あれ,ルネはどこ?」
あくびをして,背伸びをした少年の腕が中尉の頬に当たる。剃る暇が無いの
で伸びた無精髭に触れ,驚いた少年はあわてて手を引っ込める。
水陸両用型はコクピットの広さに余裕があるとはいえ,二人乗りは快適とは
言い難い。もっとも,クラウスの機材が無ければ,もっとマシかも知れない。
「おはよう,アンリ君。ルネ君はクルツ伍長の機体だよ。」
「ここは,何処?そうかぁ飛行機に乗ったら急に眠たくなって……,」
「もうじき,地中海さ!ただ,伍長のM−03の脚がもう駄目だ。ここから
は歩くことになりそうだ。」

「トラップは仕掛け終わりました。連邦軍の奴らが迂闊に触ろうものなら,
ドカンといきますよ。」
冷却水をM−07Sに移し換え,M−03の処分を済ませた伍長が空元気な
声で報告する。自機を失った事はやはり応えるようだ。
「よし,出発する。俺が偵察がてら先行する。500m後方を歩いて来い。
校長先生から預かった大事な子供達だ。しっかり護衛しろよ。」
「判ってますよ,中尉。じゃあ,行こうか。」
M−03を放棄したため,こちらに積載してあったクラウスの機材も移し替
えたため,M−07Sの積載容量は完全にオーバーしていた。結局,伍長と
シマール兄弟が徒歩で,中尉がその前方を警戒しつつ進むという形になった。
無論,M−07Sの後方聴音機は500m後方にスポット照準されており,
彼らに危険が及びそうな時には,何時でも取って返せるように準備していた。

しかし,特に危険な目に遭うこともなく,無事に海まで到着した。
「うわぁーっ!!海だぁーっ!!」
クルツ伍長が呼び止める間もなく,二人の少年はパイロットスーツを脱ぎ捨
てて,浜辺に飛び出していった。
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「ねぇ,一つだけ聞いて良い?」
「何?」
「M−03の膝って何処なの?大腿部から直接くるぶしの関節に繋がってる
みたいなデザインだけど。」
「そっそれは………,」
「そもそも,M−03って,どんな具合に陸上を歩くのかしら?」
「『それを言っちゃあおしまいよ(by寅さん)』って,言ってるように,
これは考えちゃいけない事なんだよ。」
「ふーん。色々難しいのね。」
「デザインはかっこいいと思うんだけどね。実際TVでも,あんまり歩いて
いるシーンは無いなぁ。」
「じゃ,ひょっとして,元々の設定から『地上は満足に歩けない』だったり
して?」
「だったらマズいな。何kmも歩かせちゃったからな。よし,それで膝関節
が壊れたことにしよう。」
「安直ねぇ。」


”赤い狐”第21話(アキロニア戦記編)

ハルトマン中尉はM−07Sをクルツ伍長と乗り換え,「海中で待つ」よう
に指示すると,民間人に変装し,やはり変装した兄弟を連れボートを調達に
付近の村を捜索した。そして,
「あんたら,ジオン軍じゃろう?」
漁船を物色していたところを村人に発見されてしまった。
「なぁーに,気にするこたぁねぇ。アフリカの基地まで行きたいんだろ。」
「はぁ,しかし,構わないのですか?」
「燃料代さえ貰えればね。」
連邦軍に通報されるのを覚悟していたハルトマン中尉は思わぬ厚遇に驚いた。

トルコの民衆はジオン軍侵攻に際し,比較的友好であったらしい。
地球連邦の創設時期に最も苛烈に反抗したのは,イスラム教文化圏であった
という。連邦組織の中枢を占めていたのが前世紀に大国と呼ばれていた西洋
文明先進国であった事(地球環境を破壊したのはヨーロッパ人ではないか!)
宇宙への移民政策という許し難い暴挙を強要された事(コロニーに移民した
者は二度と地球の大地を踏むことは出来ない。メッカ巡礼も×)(回転する
コロニーの中からどうやって聖地礼拝をすればいいんだ?)こういった宗教
上の無配慮に対する反感から連邦創生期に反連邦武装蜂起が頻発し,連邦軍
による弾圧が最も激しく繰り返されたのが小アジア・中東地域であったのだ。

ハルトマン中尉達は徴用した漁船に乗り込み,沖へ出た。
その後方を密かにクルツ伍長のM−07Sが追尾している。
「で,何処に行くんで?ジオンの旦那。」
「それが,実はな……」
「中尉,兄さんがあっちだって!!」
「えっ,何?」
アンリは漁船の舳先に立っていた。潮風に金髪を揺らし,瞳を閉じ,意識を
集中させ,遙か彼方の”大佐の意識”を掴まえようとしている。
ルネは兄のアンリが捉えた”大佐の意識”の大まかな方角を中尉に指示した。
「なるほど,便利なものだ。」
「僕も『相手がそこにいる』って判れば出来るんだけど,兄さんにはかなわ
ないや。今だって,同じようにしたら,イルカの群に気を取られちゃうし。
でも,あんまり続けてやると,疲れちゃうんだ。」
「いや,大まかな方角が判ればいいさ。この向きならキプロスだな。よーし
船長。船をキプロス島に向けてくれ。」
「承知しやしたぜ。」
船長は舵輪を勢い良く回した。激しい悲鳴があがった。ついでに水音も。
「中尉!!大変!!兄さんが海に落ちちゃった!!」
「急に進路を変えるからだ。船を止めてくれ。」
ハルトマン中尉は慌てて飛び出し,海に飛び込んだ。コロニー育ちのアンリ
は案の定,溺れていた。
「何をやってるんだろう?」
後方を追尾しており,漁船のえらく派手なエンジン音で聴音が不可能だった
ため,会話を聞き取れなかったクルツ伍長には不思議な光景だった。

数時間後,漁船はU−99と会合し,シマール兄弟達は大佐と再会できた。
船長は想像した以上の報酬(口止め料もコミ)を貰う。
そして,U−99はM−07Sを収容し,キプロスを後にした。
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「うわぁー,ついに社会派ネタで俺設定が登場ね。」
「そうなんだ。よくジオン公国ではギレン派とキシリア派との軋轢が話題に
なるけれど,『地球連邦も決して一枚岩では無かった』というのが,私の考
えなんだ。そもそも地球連邦の結成のいきさつも,あんまり明らかになって
いないんだよ。」
「じゃあ,平和的な手段だけで成立した訳じゃないかもしれないのね。」
「そう,地球規模の国家が成立するための大きな戦争があったと思うよ。」
「『このままじゃ地球が駄目になる!』って市民運動と,行動力のある政治
家の活動で,成立させられないのかしら。」
「もし,そういった活動で,地球連邦の組織が成立させられるのなら,成立
させる必要が,そもそも無いんだよ。今の国連と各国家で協調して,地球の
環境を改善していけばいいんだから。」
「でも,自国の都合だけを考えてる国とかも出てくるじゃない?」
「だから,そういった国家機構を滅ぼして地球連邦が成立するんだよ。」


”赤い狐”第22話(アキロニア戦記編)

「ご苦労。ハルトマン中尉!!」
「いえ艦長。楽しかったですよ。結局”大盆”は一皿も平らげることが出来
ませんでしたがね。それに,伍長のM−03を失ってしまいました。申し訳
ありません。」
「なに,連邦に与えた損害を考慮すれば,原価償却は済んでおる。お前らも,
無事に帰艦したことだしな。」
「はい,クルツ伍長は艦長の読み通りに『使える』奴です。エースになるの
も時間の問題でしょう。」
「彼には曹長の辞令が用意して有る。大佐の計らいだ。」
「それは喜ぶでしょう,艦長。で,私には?」
「自機を失うまで奮戦し,初陣で連邦のMSを3機も撃破するとは,将来が
楽しみじゃないか。」
「いや,彼の戦果は1機ですが?」
「クルツ曹長は『君が戦果を譲ってくれた』と聞いて感謝しているはずだ。
良い先輩を持って,彼も幸せ者だなぁ。」
「かんちょぉー………。」
「アンリ君に風邪をひかせかけた罰だ。部屋で謹慎だな(笑)」
「了解しました。次の作戦まで待機します。で,校長先生の次の作戦はどこ
ですか?」
「宇宙(そら)に持ち帰るものがあるらしい。しかし,よほどの陽動作戦が
無ければ,無事にスエズを通過は出来ん。アデン宇宙港へは辿りつけそうも
ないな。」
「と,なるとジブラルタル廻りですか?」
「いや,進路は現在東に向かっている。目標はまだ,大佐の胸の内さ。」
「また,面白いことを考えているみたいですね。」

「艦長!カリマンタンから通信です。『収容準備は完了。開始時刻の連絡を
乞う。』とのことです。」
「よーし,やっと大佐に計画を聴かせて貰える。おい中尉!何でついて来る。
お前は謹慎中だ。部屋で休んでろ。」
「いやぁ。クルツ曹長が『謹慎処分は自分が機体を失ったからです。代わり
に自分が受けます』といって,代わってくれたんですよ。良い後輩を持って
私は幸せ者だなぁ(笑)」
「小癪な奴め!よし,一緒に来い。ただし,大佐との話がすんだら,直ちに
部屋で休め。これは命令だ!寝れんようなら,薬を盛るぞ。チオペンタール
とプロポフォール,どっちが良い?」
「艦長秘蔵の68年物のボルドーが良いです。」

しかし,ハルトマン中尉はその酒にありつく事は出来なかった。艦長と作戦
内容を聴いた直後,大佐の部屋で崩れるように倒れ込み,そのまま深い眠り
についたのだ。彼にとってのオデッサの戦いがやっと今終わったのだった。
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「前回あたりから,話がコメディっぽくなっていない?別に赤い狐でお笑い
を取る必要はないんじゃないの?」
「いや,ガチガチのミリタリー物にすると,読者がついて来れないからさ。」
「でも今回はほとんど漫才だわ。」
「ストーリー自体はシビアに進んでるんだけどね。」
「うーん,これってシビアなのかしら?」


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